図1 結晶構造
図1 結晶構造
[画像のクリックで拡大表示]

 東京工業大学フロンティア研究センター教授の細野秀雄氏らは,鉄を含むオキシプニクタイド化合物(LaOFeAs)が超電導状態を発現すると2008年2月18日に発表した。報告された最大転移温度は32K(-241.15℃)である。これまで鉄(Fe)などの磁性材料では超電導現象は起きないと考えられていた。今後,同様な結晶構造を備える化合物群の材料探索により,さらなる転移温度の高温化が期待できるとしている。

 今回発見されたLaOFeAsは,電気絶縁性であるLaO層と金属的な電気伝導を示すFeAs層が交互に積層された結晶構造を持つ層状化合物である(図1)。通常の状態では低温にしても超電導現象は発現しないが,酸素原子(O)の一部をフッ素原子(F)に置換すると超電導現象を示すという。具体的には,フッ素の置換量が3%を超えると超電導状態が発現し,11%近辺で最大の転移温度である32Kを得ている。

 細野氏らのグループは,2006年7月に同系統の化合物であるLaOFePが超電導物質であることを報告しているが,その際の転移温度は5K程度と極めて低かった。今回,その組成の一部を変更して転移温度の向上に成功したという。これらの化合物はLn(O1-XFX)M Pn(ここでLn=ランタン系列元素,M=遷移金属,Pn=P(リン),As(ヒ素),Sb(アンチモン)のこと)の一般式で表せるが,それぞれの元素を入れ替えたり,配分量を変えたり,フッ素の置換量を調整したりすることで探索可能な物質が数多く存在するため,今後の高温化に期待できるという。実際,ごく最近の予備調査的な実験データでは,転移温度が50K程度にまで上昇することが示唆されているという。

 今回の成果は,JST(科学技術振興機構)基礎研究事業であるERATO-SORSTプロジェクトの「透明酸化物のナノ構造を活用した機能開拓と応用展開」(2004年10月~2009年9月)で得られたもの。同プロジェクトは,LnOMPn系の層状化合物の系統的な機能探索を進めている。この化合物は,絶縁層であるLnOと半導体層であるMPnが交互に積層した結晶構造を備え,各元素を選択することにより,絶縁体や半導体,磁性半導体,強磁性体と性質を変えることから,非常に興味深い化合物として注目を集めているという。

 高温超電導物質としては,金属系材料として2ホウ化マグネシウム(MgB2)が39Kの最高転移温度を,銅系酸化物材料としてHg-Ba-Ca-Cu-O系が常圧で130K,高圧で160Kの最高転移温度を示すが,ここ最近記録の更新は止まっている(図2)。

図2 超電導物質の転移温度の推移
図2 超電導物質の転移温度の推移
[画像のクリックで拡大表示]