液晶新工場の記者会見で登壇する松下電器産業 常務役員の森田研氏
液晶新工場の記者会見で登壇する松下電器産業 常務役員の森田研氏
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 松下電器産業が液晶新工場の概要をついに発表した。関連会社のIPSアルファテクノロジは,兵庫県姫路市に第8世代のガラス基板を採用したパネル工場を建設する(Tech-On!関連記事)。2010年1月の稼働開始を予定しており,投資額は約3000億円である。IPSアルファテクノロジは,2008年3月31日に松下電器の連結子会社となる予定で,3000億円の資金も松下電器が全額負担する。生産するパネルの大部分は,松下電器のテレビに使われるとみられる。つまり,この液晶工場は事実上,松下電器による松下電器のための工場といえる。

 松下電器は,今回の液晶工場だけでなく,PDPについても現在,約2800億円を投資して2009年5月の稼働を目指す第5工場を兵庫県尼崎市に建設している。同社が描く姿は,PDPテレビについても液晶テレビについても徹底した垂直統合を推し進めると同時に,成長する大型の薄型テレビ市場において世界シェア25%維持という数量規模も追い求めるというもの。今回の液晶工場は,この方針を実現させる一手という位置付けだ。

 積極的に邁進する松下電器。しかし,同社には今,「持てるもの」のジレンマも少なからず垣間見える。すなわち,PDPと液晶の両方を持つことのジレンマである。それは大きく三つある。(1)「PDPの雄」としてのジレンマ,(2)40型台の製品戦略に対するジレンマ,(3)投資負担へのジレンマ,である。

徹底したPDPのアピールを終えてから

 まず(1)の「PDPの雄」としてのジレンマである。今回の液晶新工場発表は,結果として,松下電器がPDPに関する徹底的なアピールを終えた後となった。150型のPDPなどを,2008年1月に米国ラスベガスで開催された「2008 International CES」だけでなく,国内でも徹底してアピールしたほか(Tech-On!関連記事),つい先日はPDP第5工場の詳細発表や第4工場の見学会を実施したばかり(Tech-On!関連記事)。ここまで,PDPのアピールを続けたのは,液晶新工場を発表することによって,「松下は液晶に傾注した」という印象を与えないための配慮とも考えられる。

 PDP市場においては現在,松下電器が孤軍奮闘している。日立製作所やパイオニアなどは,次期工場への投資も不透明なままで,産業的には松下電器との差が広がるばかり。この状況下で「PDPの雄」である松下電器が液晶に傾注したと思われれば,部材などの周辺技術を含めた技術開発のスピードが加速しなくなる恐れもある。こうした事態は,松下電器にとっても避けたいところだろう。

 松下電器にとって,PDPは今後の薄型テレビ事業の大事な両輪の一つである。そのため,液晶への取り組みを大々的にアピールできないというジレンマは,少なからずありそうだ。

40型台の液晶テレビも視野に