「今後もトヨタがもの作り企業であり続けるための21世紀のクルマを考える」-これがプリウス開発のプロジェクト・チームに与えられた命題である。新しい車両コンセプトの開発、ハイブリッド・システムという革新的技術の開発、発売までの限られた開発期間など、その道のりは平坦ではなかったが、トヨタは自らに高い目標を課し、世界で初めて乗用車へのハイブリッド・システムの実用化に成功する。知識経営論を研究する北陸先端科学技術大学院大学准教授・遠山亮子氏は、その要因について「トップとミドルのリーダーシップがうまく機能した」ことを挙げる。同氏に、トヨタのプリウス開発プロセスと革新的製品開発プロジェクトにおけるリーダーの役割について聞いた。

 プリウス開発の成功要因は何でしょうか。

 いろいろな解釈が可能だと思いますが、一つはトヨタの中にハイブリッド・システム開発に必要な技術資産が蓄積されていたことです。革新的な技術は作ろうと思ってすぐ作れるわけではありません。トヨタはプリウスの開発以前に、EV開発部という組織で電気自動車の開発研究を行っていたことがあります。この研究を通じて、ハイブリッド・システム開発に必要なモータ技術、制御技術、バッテリー技術などについての知識が蓄積されていました。しかし、知識経営の立場からより重要だと考えているのは、組織のトップとミドルの二つのリーダーシップが非常にうまく機能したということです。

 プリウス開発におけるリーダーシップの役割とは。

 トップのリーダーシップについては二つあります。一つは、強い意志を持ってプロジェクトを開始したということです。自動車に対して環境や安全問題など新たな社会的要請が高まる中、既存モデルの機能や性能を改善するだけの自動車開発では早晩行き詰るのではないかという強烈な危機感がトップにはありました。もう一つは、プロジェクトの要所でトップ自らがプロジェクト・チームに野心的な目標を与え、「カオス」を意図的に作り出したことです。

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