図1◎新開発のABS/PCアロイの特性のイメージ「
図1◎新開発のABS/PCアロイの特性のイメージ「
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図2◎従来材(左)と開発材(右)の電子顕微鏡写真
図2◎従来材(左)と開発材(右)の電子顕微鏡写真
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 東レは、2種類以上の樹脂をナノオーダーで最適に混合(アロイ)する技術を発展させ,アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)とポリカーボネート(PC)からなるアロイの特性を向上させた。従来のABS/PCアロイと比較すると,比重と耐熱性は同等だが,耐衝撃性や耐薬品性,めっき密着性(加飾性)が大きく向上している(図1)。汎用の工業用樹脂として展開していく。

 この技術は,樹脂成分を混合する際,分子が自発的に集合していく「自己組織化」作用を制御するもの。これにより分子をナノオーダーで精密に整列させ、3次元的な連続構造を形成させることができる(図2)。この技術は2005年10月に東レが既に発表しているが,今回の開発では、新たな分子設計を加えることなどして従来材の特性を大きく向上させた。

 今回のABS/PCアロイの開発では、高エネルギー光源(シンクロトロン光)を用いた放射光X線散乱構造解析法を新たに導入したことによる貢献が大きかった。ABSとPCの2種類の樹脂が分子レベルで混合された領域(界面)を測定・解析した結果,この界面を制御することで、ナノオーダーの3次元連続構造を安定的に形成できるようになった。ABS/PCアロイで3次元連続構造はこれまで不可能とされていたという。

 開発したアロイは、ABSが備える成形性と加飾性に加えて,PCの特徴である耐衝撃性と耐熱性などすべての特性を実現できた。同時に、これまで弱点だった耐薬品性や耐湿熱性や肉厚成形品での耐衝撃性も向上させた。東レは、工業用途全般に幅広く展開していく方針。自動車部品をはじめ、電気・電子部品、シートなど向けに用途開発を進め、1年以内の本格発売を目指す。

 なお,2月13~15日に東京ビックサイトで開催される「nano tech 2008 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」で,ABS/PCアロイのサンプルを展示する