「独創性のカギは“想定ユーザー=自分”のために作ること」,Ruby開発者のまつもと氏とロボット開発者のロボガレージ高橋氏が対談
東京ビックサイトで開催されているIT関連イベント「ITpro EXPO 2008」で2008年1月31日,高い独創性で知られる二人の技術者が「独創的な開発のために必要なものは何か?」と題した対談を行った。プログラミング言語Rubyの開発者であるネットワーク応用通信所/楽天 楽天技術研究所 フェローのまつもとゆきひろ氏と京都大学のベンチャーであるロボガレージのロボット・クリエイター,高橋智隆氏である。対談を通して,ソフトウエアとロボットという異なる分野であっても,独創性の高い技術者には多くの共通点があることが浮き彫りになった。
まず,まつもと氏と高橋氏がそれぞれ簡単に自己紹介。さらに高橋氏は持参した2体のロボット「クロイノ」と「FT」のデモを行った。これらは高橋氏が一人で作り上げたオリジナルのロボットである。
まず「良いものを作る上で心がけていることは?」というテーマに対して,まつもと氏は「仮想ユーザー,すなわち“自分”がいかに気持ちよく(Rubyを使って)ソフトウエアを作れるか,を重視している。大学の研究からは世界で使われるようなプログラミング言語は出てこない。最先端の技術は大事だが,自分はコモディティーになりつつある技術をうまくパッケージして提供している」と語った。そして高橋氏に「その意味では高橋さんも“画期的なサーボ・モータ”といった最新技術を開発しているのではなく,Rubyのようにデザインやパッケージで勝負しているのでは」と問いかけた。これに対し高橋氏は「たしかに似ている。私も研究室の中だけの研究者のための研究ではなく,『ユーザー=自分がほしいものを作ろう』という発想。それで,良くも悪くも独創的になるのでは」と答えた。
次が「独創的な発想はどこから来る?」というテーマである。高橋氏は「いつも,いろんな視点で今のロボットの気に入らない点やこんなロボットがあればいいなということを考えている。そうして暮らしていると,アイデアが徐々にたまってくる。それを次のロボット開発に生かしている」と答えた。ただ,まじめに堅苦しく考えているのではなく「何となく頭の片隅で考えている感じ」なのだという。まつもと氏も「ロボットをプログラミング言語に置き換えれば自分もほとんど同じ。いろんなプログラミング言語を見て『この機能はいいなあ』といったことを考えている」と語った。ここで高橋氏がまつもと氏に対して「他の人が開発したプログラミング言語をどの程度参考にしているのか」と質問。これに対してまつもと氏は「新しいプログラミング機構を考える研究者なら,あえて他の人のものは見ない方がいいかもしれない。ただ,自分が提供しているのは最新技術というより“デザインの妙”なので,積極的に見て参考にしている」と答えた。
「好きを貫いて対象に没頭するには?」というテーマでは,二人とも「本当に好きなことをやっているだけ」ということで共通していた。ただ高橋氏は「地味な部品を旋盤で削っていたりするとモチベーションが下がってくることがある」という。「そんなときは,独力でがんばっている変な人,例えばまつもとさんや青色LEDで有名な中村修二さんを取り上げた記事を読むとモチベーションが復活する」(高橋氏)。一方,まつもと氏は,寝食を忘れてプログラミングに没頭してしまうタイプだという。「ほっとくと入院,なんてことになるかもしれない」(まつもと氏)。だが実際には,子供の相手をしなくてはならないなど「家族がいい錨(いかり)の役割になってくれている」という。
対談の最後のテーマは「10年後,20年後にRubyやロボットはどうなる?」。まつもと氏は「プログラミング言語の進化は遅いので,10年や20年ではあまり変わらないと思う。幸い,Rubyは10年や20年では消えないくらい広まった。遠い将来にはプログラミング自体が不要になるかもしれない」と語り「そのときにはコンピュータにお願いして趣味のプログラミング用の環境を出してもらおうかな」と会場を笑わせた。高橋氏は「携帯電話が必需品になったように,15年後には1家に1台,家庭用ロボットがいる時代が来る」と持論を披露。「介護用ロボットや救助用ロボットのようにわかりやすいものというより,ロボット開発者の意図とは関係なく,ユーザーがロボットの新たな使い方を生み出していくはず。役に立つ,立たないということでなく,ロボットはライフスタイルに溶け込んでいくだろう」と締めくくった。












