クレハは,石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維「クレカ」の国内外の生産拠点において生産能力の増強に踏み切る。国内はいわき事業所(福島県いわき市)。炭素繊維原糸の生産能力を現在の年間1100tから2009年春に同1450tに,さらに2012年春には同1800tに拡大する。併せて,断熱材「クレカFR」と短繊維「クレカチョップ」の生産能力を段階的に増強し,2012年春には2倍に増やす。一方,国外は中国の上海呉羽化学有限公司(上海市)。上海市嘉定工業区南区から同工業区北区への移転に伴い,クレカFRの生産能力を2009年春に2倍に,2012年春に3倍に増設する。今回の国内外の設備増強(移転費用含む)に伴う総投資額は約60億円。

 世界最大のピッチ系炭素繊維メーカーである同社の全世界における炭素繊維関連の売り上げは現在60億円程度。主力の断熱材(クレカFR,クレカフェルト)は,ディーゼル車用排ガスフィルタ(DPF)やハイブリッド車用モータ磁性材料,300mm半導体ウエハーなどさまざまな製造工程で広く使われている。一方,短繊維(クレカチョップ,クレカミルド)は樹脂との複合材として自動車の軸受やクラッチフェーシング,ブレーキライニングといったシール材部品をはじめ,電気/電子部品,導電材料,機械部品として利用されている。

 同社は「炭素繊維事業は,これまでの需要創生期から本格的な需要拡大期に移行し始めた。中でも,環境関連産業でのニーズが高まっている」とし,2012年度には全世界における売り上げを現在の2倍に当たる約120億円まで伸ばす計画だ。