「人類の創出する情報量は2008年に年間120Eバイトになるという(1Eバイト=1018バイト)。一方,HDDの年間出荷総量は95Eバイト。フラッシュ・メモリは4Eバイトだ」。垂直記録方式のHDD技術で知られる東芝の田中陽一郎氏(デジタルメディアネットワーク社ストレージデバイス事業部 商品企画部長)は,講演冒頭で壮大な試算を示した。

 講演は,HDD業界団体のIDEMA JAPANが主催したセミナーのプログラムの1つ。直前まで3人のアナリストが,HDD市場の展望についてフラッシュ・メモリとの競合などを懸念材料に挙げていた。田中氏はその論調に異を唱える。「フラッシュはコンテンツ流通の最下流部分,すなわちコンテンツを持ち運ぶ携帯機器の分野を面白くしてくれる。これによりコンテンツ流通そのものが活発になり,流れる情報の総量が増す。HDDはその記録量の8割を担い続ける」とした。

 1.8インチHDD市場に関しても強気の見通しを示す。1.8インチHDDの市場規模は,携帯型音楽/動画プレーヤ向けの出荷が減ったために2007年は前年比で17%ほど落ち込んだが,田中氏は2008~2011年は2ケタの成長が続くとみる。ビデオ・カメラやノート・パソコン,外付けHDDへの採用が進むとの予測を根拠とした。「2008年にはビデオ・カメラの40%以上がHDD搭載機になる。ノート・パソコンでも『MacBook Air』のような機種には1.8インチ型がマッチする」(田中氏)。

 東芝のHDD事業は2.5インチ型と1.8インチ型に特化しており,HDD市場全体に占める出荷台数シェアは8%程度。今後も2.5インチ型の大容量化を事業の基本戦略とする。戦略の背景として田中氏は「1Tバイト以下の領域であれば7200rpmの2.5インチHDDが3.5インチ型に取って代わる可能性がある」との見立てに加えて「2.5インチ型の最高容量機を提供することで,新しいHDD応用製品のアイデアを喚起できれば」と新市場誕生への期待を語った。

 2.5インチHDDの大容量化のカギを握る技術として田中氏は,2007年9月に発表したディスクリート・トラック技術(Tech-On!用語Tech-On!関連記事)を紹介。「現状の垂直磁気記録で500Gビット/(インチ)2まではカバーできる。500G~1Tビット/(インチ)2までの開発のどこかで垂直磁気記録をベースにディスクリート・トラック技術を採用することになる」との展望を示した。

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