なぜこうなってしまったのか。背景には、パソコンで地デジを扱う上での厳しい制約がある。具体的には、(1)コピーワンス信号による複製物の生成制限、(2)パソコン内部におけるコンテンツの暗号化(ローカル暗号化)、(3)パソコン本体とチューナーを1対1で紐付けする必要性、である。その結果、アナログテレパソ時代は当然のようにできていたことが、地デジテレパソになった途端「外付けチューナーがない」「チューナーを単体購入できない」「映像データのコピーができない」といったデメリットとしてユーザーにのしかかった。

 ローカル暗号化と1対1については少し説明が必要だろう。まず前者だが、汎用機器であるパソコンは、多様なソフトや周辺機器を同時に使え、連携することも可能だ。半面、コンテンツの保護という観点では汎用性がマイナスにも働く。メモリーやHDD、USB、PCIバス、あるいはアナログRGBなど、データの置かれる、もしくは流れるあらゆるところで、不正なプログラムや周辺機器によってデータを違法コピーされる可能性がある。

 そのため地デジテレパソでは、厳密なコンテンツ保護の仕組みを実装することが求められた。第2報で示したように、地デジの映像にはもともとMULTI2という方式の暗号化が施されている。B-CASカードに入っている復号鍵を用いて、パソコン内でこれを復号する。だが、その後再び3DESやAESなどの方式により暗号化し、メモリー内で復号する仕組みとなっている。これがローカル暗号化である。上述のように不正プログラムや周辺機器によってデータをコピーされるのを防ぐための処理だ。

 さらに、メモリーや各種インタフェース上で、地デジの映像データにアクセスしようとする不正プログラムがないかどうかを監視する専用LSIも開発・実装されている。ローカル暗号化と監視LSIを用いた厳格なコンテンツ保護は、開発負荷とコストの両面でハードルの高いものとなった。

「PCとチューナーは1対1」

 次に1対1の問題を見ておこう。アナログテレパソの時代は、地上アナログ放送を受信可能なパソコン用の外付けチューナーが、単体で多数市販されていた(図2)。こうした製品を購入してUSB端子やPCIスロット、PCカードスロットなどに接続すれば、どのパソコンでも簡単にテレビを視聴することができた。だが、同様の機能を持つチューナーで地デジ対応のものは、単体では一切市販されていない。これは、電波産業会(ARIB)の標準規格により、パソコン本体に入っている視聴用ソフトとチューナーとは、必ず1対1の組み合わせになるよう定められているためだ。

図2 アナログテレパソの時代には、単体の外付けチューナーも多数販売され、既存のパソコンにテレビ視聴機能を簡単に追加できた。写真はバッファローが現在市販している、外付けの各種アナログチューナー製品
図2 アナログテレパソの時代には、単体の外付けチューナーも多数販売され、既存のパソコンにテレビ視聴機能を簡単に追加できた。写真はバッファローが現在市販している、外付けの各種アナログチューナー製品 (画像のクリックで拡大)

 汎用機器であるパソコンでは、例えば録画した映像データを他のパソコンに複製して再生されたり、ARIBの標準規格を無視する不正なプログラムが現れたりする可能性がある。こうした問題を避けるため、地デジテレパソではチューナーと視聴ソフトの両方に個体番号を持たせておき、映像データを送受信しようとする相手が正当かどうかを認証する。これにより、異なる個体番号の機器やソフトに対しては動作しないような構造となっている。

 これまでは、1対1の対応関係は厳密に解釈されるとの考えが主流であった。放送業界のパソコンに対する懸念は強く、パソコン業界も外付けチューナーの単体販売では放送業界の理解を得るのは困難との見方が大勢を占めていた。こうして、地デジ対応の外付けチューナーの単体発売は長く見送られていた。USB接続の外付け地デジチューナーとしては、エスケイネットが2007年10月に量産出荷した「MonsterTV HDU」があるが、現時点では単体での販売を行っていない。同社がデルへOEM供給し、デルが自社製パソコンのオプションとして販売するのみである。チューナーとパソコンの機器認証が行われ、セット販売されたパソコン以外に接続しても動作しないよう作られている。