これまでもっぱら固定のWiMAX(IEEE802.16d)サービスの提供を目指してきた欧州で,自動車向けの移動通信サービスが可能なモバイルWiMAX(IEEE802.16e)を採用する機運が急速に高まってきた。特にドイツの一部地域では既にモバイルWiMAX向けの商用サービスのインフラの構築をほぼ終え,2008年1月18日に一般個人に対する加入受け付けを開始する。

 ドイツ南東部のザールラント州の地域通信事業者VSE NET GmbHは,2008年1月18日に欧州初となるモバイルWiMAXの通信サービスを開始する。同社は2007年8月に通信機器大手のフランスAlcatel-Lucent社などと提携し,モバイルWiMAXの基地局などのインフラの構築を開始していた。インフラ構築は2007年11月30日にはほぼ完成し,1月18日以降,モバイルWiMAXを基にした高速インターネット・サービス,IP(internet protocol)電話,各種のデータ通信サービスを提供するという。

 ただし,同社が利用する周波数帯は,従来,固定のWiMAXを提供する目的でドイツInquam Broadband GmbHが確保していた3.5GHz帯である。2.3G~2.6GHz帯を利用中,または利用する見通しの韓国,米国,日本などと異なり,電波の直進性が高く,移動通信サービスにはあまり向かない周波数帯である。それでも,VSE NET社は固定よりも移動通信サービスにより高い可能性があると見積もった模様だ。

英国は電波の出力も移動通信向けに引き上げ

 同様な動きは,英国やフランスにもある。日本の総務省に当たる英Office of Communications(Ofcom)は2007年11月22日,英国での3.5GHz帯(3.48G~3.50GHz,3.58G~3.60GHz)のほとんどを確保している英UK Broadband Ltd. に対し,従来は固定通信限定だった免許を,移動通信サービスに利用することを許可すると発表した(発表資料)。これは単にIEEE802.16e準拠の通信機器の利用を認めただけでなく,基地局の最大出力を従来の21dBW/MHzから29dBW/MHzへと引き上げ,より使いやすい通信サービスの提供を可能にするものである。ちなみにUK Broadband社は,香港の大手通信事業者Pacific Century Cyber Works(PCCW)社の子会社である。

 フランスの通信事業者Altitude Telecom社は2007年12月11日に,イスラエルの無線通信機器メーカーであるAlvarion Ltd.と,Alvarion社製モバイルWiMAX製品群「4Motion」をフランスでの3.5GHz帯を用いた移動体通信サービスに利用することで合意した。Altitude Telecom社は最近になって,この3.5GHz帯の無線免許をフランスの各地域ごとに買収し続けている。

悲観論が飛び交う米国

 モバイルWiMAXへの機運が高まる欧州とは逆に,米国では「モバイルWiMAXは死んだ」という見方がささやかれるほど,モバイルWiMAXに対する悲観論が出始めている。そのきっかけは,米Sprint Nextel社のGary Forsee氏と米Motorola Inc.のEd Zander氏というモバイルWiMAXを牽引していた2大通信関連企業の各CEOが2007年11月に相次いで辞任を発表したことである(関連記事)。

 日本の大手通信機器メーカーの幹部は「まだSprint社がモバイルWiMAX計画を止めてしまうとは聞いていない」というものの,米国のアナリストの多くはモバイルWiMAXより,次世代携帯電話技術であるLTE(long term evolution)を支持している。2007年11月29日に,Sprint社の競争相手である米Verizon Wirelss社がLTEを「4G技術」として採用することを発表したことも悲観論に拍車をかける結果になった(発表資料)。

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