TRONSHOW2008の基調講演で語る坂村健氏
TRONSHOW2008の基調講演で語る坂村健氏
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 2007年12月12~14日に東京国際フォーラムで開催している「TRONSHOW2008」で,T-Engineフォーラムの会長で東京大学 教授の坂村健氏が基調講演に登壇し,同氏がT-Engineフォーラムやトロン協会などを通じて普及を進めるユビキタス・コンピューティング環境の現状について語った。

 まずユビキタス・コンピューティング環境の実現について,2007年にはいくつもの実運用が始まったことを強調。例えば東京・六本木にある「東京ミッドタウン」では,場所やモノを一意に識別するコード体系「ucode」を採用した無線または赤外線のマーカーが約500個設置されており,これと「ユビキタス・コミュニケータ(UC)」と呼ぶ携帯情報端末を組み合わせることで,設置されている芸術作品の解説や場所の案内,作家へのインタビューなどのコンテンツを提供するサービスを始めている。また東邦薬品では電池を接続し,自ら電波を発信するタイプのタグ(アクティブ・タグ)を使って,病院に納品する薬品を適切に管理するためのシステムを実現している。また鶏卵や魚などのトレーサビリティを確保するための技術として,実証実験も進められている。

 こうしたシステムは元々,障害者の自律移動を支援するための技術として開発されてきた。実際,神戸市南京町や九州新幹線熊本駅,静岡市,奈良市などで車いす使用者や目の不自由な人のための移動支援の実証実験が実施されている。「現実には健常者の方が人数は圧倒的に多い。だから,ユニバーサルなサービスとして,障害者支援だけでなく健常者にも使えるようにしなければ,インフラ整備につながらない」(坂村氏)。ハードウエアやIDを共通化することで基盤を整備し,普及を推進する狙いがあると語った。「一般にIT分野では,こうした技術を自由に開発させて競争原理を働かせて効率を高める。しかし,ユビキタス・コンピューティングの場合,共通となる基盤が必要であり,自由競争はかえって効率が悪い。標準化する部分を明確にし,共通に利用できるようにすることが肝要」(坂村氏)。

 講演中に紹介されたサービスは,個別に見ると技術的な目新しさはない。例えば在庫管理に,製品種別ごとに統一したID番号を使うというのはごく一般的だ。しかしucodeは「企業や国の枠を超えて利用できる」(坂村氏)点が違うという。また,ucodeでは製品の種別ではなく,個々の部品それぞれにIDを割り当てる。このため,「例えば個別の部品に固有の問題が発生しても,それを追いかけることができる」(坂村氏)といった優位点があるという。