久保川昇氏 |
久保川氏は,HDD業界は1990年代後半の「オーバー・テクノロジ」時代を経て現在,黄金期にあると解説する。久保川氏のいうオーバー・テクノロジとは,ユーザーの需要を上回った技術が供給されている状態を指す。「90年代の前半,パソコンにHDDが載るようになった当初は,ユーザーは少々高値でも容量の大きなHDDを求めていた。この需要に応えるべくHDDメーカーの間で記録密度向上の開発競争が盛んになり,90年代後半には,パソコンにGバイト単位のHDDが内蔵されるようになった。ところが容量が十分になってくるとユーザーは今度は少しでも安価なHDDを求めるようになり,値崩れが起きた」(久保川氏)。
しかし,2000年代に入ってこの市況に変化が現れる。「動画をHDDに保存するという使い方が生まれたため,再び大容量に対する需要が強まった。こうして価格も安定。出荷台数もパソコン向けが堅調に伸びるとともに,デジタル家電に搭載されるようになったことから,年率10%を超える成長が続いた」。2006年の世界出荷台数は前年比14.8%増の4億3420万台だった。2007年は13.1%伸びて4億9110万台となる見通しだ。
ゲーム機戦争による需要増,「次こそは」
デジタル家電向けHDDの用途別の出荷比率(2006年実績,インフォメーションテクノロジー総合研究所の調べ) |
ただし,これまで順調に出荷を伸ばしてきたデジタル家電向けHDDは2007年通期でみると,台数では前年実績を上回るものの,伸び率でHDD業界全体を初めて下回る見込みという。携帯型音楽プレーヤでフラッシュ・メモリに押されていることや,家庭用ゲーム機のシェア争いでHDD搭載機のPS3やXbox360より非搭載のWiiが優勢に立っていることが影響し,伸びが鈍るとの予測だ。「ゲーム機向けHDDが再び盛り上がるのは次世代の家庭用ゲーム機が出てくる2011~2012年ころ。そのときは今度こそ,どこが勝っても(その機種に)HDDが載っているはず」。
中期的にはデジタル家電向けを含め,HDD市場は成長を続けると久保川氏はみている。電子産業では全般的に2008年の北京五輪開催による特需に期待が集まっているが「それ以上に地上アナログ放送の停波がHDD需要に結びつきそうだ。地上デジタル放送チューナ単体を買うかわりにチューナ内蔵のHDDレコーダを買い求める消費者は少なくないだろう」。ノート・パソコン向けではフラッシュ・メモリによる代替が進むとの市場予測も聞かれるが「フラッシュは書き換え回数,書き込み速度がパソコン搭載には不十分。HDDとの併載はあるかもしれないが取って代わられることはない」とみる。
先行利益から残存者利益へ
2006年のメーカー別出荷台数シェア(インフォメーションテクノロジー総合研究所の調べ)。Seagateは2006年5月にMaxtorを買収した。 |
ポスト黄金時代を迎えたときには「記録密度向上に心血を注いで他社より1日でも早く量産を立ち上げ,先行利益を求めるというスタイルは変えなくてはならない。製品サイクルの長い製品を低コスト・高歩留まりで生産して残存者利益を得るのが新時代の戦略だ」。その時点では現在のように6社でシェアを奪い合うのではなく,3社程度に再編し,3社ともがある程度の事業規模を持って利益を確保するかたちが望ましいとする。