経済産業省が2007年8月15日に公表した1件の「重大製品事故」。それは,ノキア・ジャパンの携帯電話機向けのリチウムイオン2次電池パックで発生した火災事故だった。ところで,経産省の発表では,対象製品は電池パック(松下電池工業製)にもかかわらず,事業者名はノキア・ジャパンとなっている。その理由は,少々複雑だ。

 フィンランドNokia社は2007年8月14日,全世界において同社の携帯電話機向けのリチウムイオン2次電池パック「BL-5C」の無償交換に応じると発表した。電池パックの充電中に異常発熱し,発火に至ることがまれにあるためだ(Tech-On!の関連記事)。日本ではこれまでに2件の事故が起きているという。

 Nokia社の日本法人であるノキア・ジャパンは,それら2件の事故のうち2007年7月28日に大阪府で起きた火災事故の概要を,2007年8月15日に経産省に報告。経産省は同日に公表した。電池パックは松下電池工業製であるが,報告者がノキア・ジャパンであることは法律の解釈として「正しい」(経産省商務情報政策局消費経済部製品安全課)という。

 そもそも,携帯電話機の電池パックが「消費生活用製品」であるかどうかが問題だ。消安法第2条では「『消費生活用製品』とは,主として一般消費者の生活の用に供される製品」と定義されている。一般には,消費者が市場で購入できる製品であれば消費生活用製品と解釈されているようだ(自動車など例外はある)。携帯電話機の電池パックは,携帯電話事業者や携帯電話機メーカーが販売しているので,この条件は満たしている(例えばノキア・ジャパンは自社のWebサイトにおいて電池パックの直販を行っている)。

 市場で買えるとはいえ,電池パックはあくまで携帯電話機の部品なので,そもそも「製品」といえるのかという疑問もある。しかし,部品であっても,機械本体から簡単に切り離せて,さらに市場で買えるものであれば消費生活用製品として考えるようだ。

 従って,通常であれば,この事故に関しては消安法に基づく報告義務者は松下電池工業になる。ところが,今回の場合,電池パックの生産地が中国であることが問題を複雑にした。

 消安法第35条では,消安法に基づく報告義務者は「製造事業者」か「輸入事業者」のいずれかであることが定められている。電池パックを消費生活用製品としてみると,ノキア・ジャパンが松下電池工業の中国の事業所から輸入している構図だ。ノキア・ジャパンだけでなく,ソフトバンクモバイルやNTTドコモグループも対象電池パックを販売しているが,両者は販売事業者であり輸入事業者ではないので,報告義務者とはならない。

 以上の判断から,今回は「輸入事業者」であるノキア・ジャパンが消安法に基づく重大製品事故の報告を行ったと解釈できる。仮に,対象電池パックの生産地が日本であれば,報告義務者は一転,松下電池工業になっていたと考えられる。

 経産省によれば,報告義務者と実際の報告者が明らかに異なる場合には,報告義務者に指導を行うこともあるという。今回の件は「ノキア・ジャパンが法律を理解しており,松下電池工業ではなくノキア・ジャパンが最初から報告を行ってきた」(製品安全課)。

 つまり,製造業関係者が留意すべき点は以下のようになる。自社製の消費生活用製品で重大事故が起きた場合に,その原因部品自体も消費生活用製品と判断されるようなことがあれば,消安法に基づく報告義務者は部品メーカーとなる。しかし,その部品の生産地が海外にあり,なおかつ自社がその部品の輸入事業者と判断されれば,自社が報告義務者になる。「海外製で,消費生活用製品として判断される可能性のあるような部品」を採用している企業は,万が一の事態に備えて,その部品メーカーとの連絡体制を強化する必要がありそうだ。

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