来日した米Gartner社のBryan Lewis氏(右)とJohn Barber氏(左)
来日した米Gartner社のBryan Lewis氏(右)とJohn Barber氏(左)
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 2006年から2007年にかけて,半導体企業は業界再編の波にさらされた。米LSI Logic社は米Agere Systems社と合併し,米NVIDIA社は米PortalPlayer社を買収,米AMD社はカナダATI社を買収した。米Freescale社は投資ファンドに買収され,オランダPhilips社は半導体部門を分社化した。

 「2008年以降,こうした業界再編の流れはますます加速する」。米Gartner社 Semiconductor ASIC/SOC/FPGA, Research VP & Chief AnalystのBryan Lewis氏はこのように主張する。Lewis氏および同社 Semiconductor ASSP/SoC, Research DirectorのJohn Barber氏に,2008年の半導体業界の展望を聞いた。

(聞き手=浅川 直輝)



――半導体産業の業界再編を引き起こしている要因は何か。

Lewis氏 市場の面では,半導体市場の成長がゆるやかになっていること。そして技術の面では,SoCやSiPといったシステムLSIが,従来の「第一世代」から「第二世代」へと進化していることだ。

 第一世代のシステムLSIは,シングルコア・プロセサ,論理回路,メモリを集積したものだった。これに対して第二世代のシステムLSIは,マルチコア・プロセサとメモリ,そして多くのサブシステムを集積する。具体的には,GPS,携帯電話(2G/3G),Bluetooth,無線LAN,スチル・カメラ,ビデオ・カメラといったサブシステムが,すべて一つのパッケージに収まるようになる。

 こうしたLSIの開発競争で優位に立つには,それぞれのサブシステムについて強みを持つ企業を買収するか,深い提携関係を築く必要がある。

 買収戦略を採る代表的な企業に,米Broadcom社と米Texas Instruments社がある。最近ではBroadcom社がGPS用ICメーカーである米Global Locate,Inc.を買収するなど,両社ともアグレッシブに買収を仕掛けている。

 第二世代のシステムLSIを開発する企業の多くは,SoCではなくSiPの形でLSIを提供することになるだろう。45nm世代以降では,デジタル回路とアナログ回路を同一チップに混載するのが難しくなるためだ。例外として,TI社はDRP(digital RF processor)技術に磨きをかけ,SoCを提供し続ける可能性がある。

――具体的には,どのような分野で買収や合併が起こりそうか。

Barber氏 例えばデジタル・テレビ向けLSIでは,米Pixelworks社, 米Trident Microsystems社, 米Genesis Microchip社といった企業が一定のシェアを持つ。それが2008年には,Broadcom社や台湾MediaTek社などの攻勢にさらされ,LSIの単価が急速に低下するとみている。

 IPセットトップ・ボックス向けLSIでは米Sigma Designs社が強いが,2008年人はBroadcom社や伊仏STMicroelectronics社の低価格攻勢を受けそうだ。

 こうした競争の激化を経て,身売りの対象となるファブレス企業が増えると予想される。大手半導体メーカーは,どのファブレス企業を買収するか,あるいは深い提携関係を築くか,戦略的な判断が求められる。

――ASSP市場で台湾MediaTek社の躍進が著しい。その成長モデルは,Broadcom社やTI社とは明らかに異質に思える。MediaTek社の強みは何か。

Barber氏 MediaTek社の戦略には二つの特徴がある。一つは,すでに成熟した技術を載せたシステムLSIを手掛けること。もう一つは,ミドルウエアをほぼ自前で開発していることだ。

 例えば超低価格の携帯電話機向けチップの事業で,TI社はミドルウエアのライセンスをサード・パーティから得ていた。OMAPのようなプラットフォーム戦略を踏襲し,サード・パーティによるコミュニティ作りを重視したのだろう。これに対してMediaTek社は,ほとんどのミドルウエアを内製した。これによりチップ単位でライセンス料を払う必要がなくなり,コストを押し下げることができた。

 こうした戦略は,他の分野でも有効に働き得る。MediaTek社が参入した分野では,LSIの低価格化が一気に加速しそうだ。

――競争がますます激化する中で,日本のIDM企業がとるべき道は。

Barber氏 日本のIDM企業にとって最も参考になるのは,米TI社の戦略だろう。コモディティ化した分野のLSIの製造はファウンドリー企業に任せるなどして,経営資源を得意のアナログ技術に集中できた。日本のIDM企業も,低消費電力の回路設計技術といった得意分野に注力した方が良い。

 そのためには,差異化要因になりにくくなった先端プロセス技術の開発で,提携や委託を進めるべきだ。ときには,厳しい決断が必要になるだろう。

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