TI社のDon Sturek氏。ZigBee Alliance,Architecture WG 議長も務める。
TI社のDon Sturek氏。ZigBee Alliance,Architecture WG 議長も務める。
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 ZigBeeは,乾電池やボタン電池で1年以上利用できることを想定した低消費電力設計の無線通信規格である。伝送速度は250kビット/秒と他のデータ通信用無線仕様に比べて速いとは言えない。その一方,通信ノード間を無線でリレー式にデータを転送する「マルチホップ」機能など,他の無線仕様にない特徴も備えている。最初の仕様が固まったのは2003~2004年(関連記事)。センサ・ネットワークなどに利用できると当初から注目を集めたものの,対抗仕様の乱立や独自機能を盛り込むメーカーが続出したことで,これまで相互接続性はほとんど確保されていなかった。ZigBeeの市場がなかなか離陸しないのは,こうした点が少なからず影響していると考えられる。

 最近になってようやくこの相互接続性の問題が改善しつつある。従来のBluetoothのように,基準となる実装端末に対してつながるかどうかを確認する手続きが始まったからである。一方で,強力なライバルが登場した。「Bluetooth Ultra Low Power(ULP)」である。これは,Bluetooth SIGが2007年6月に,フィンランドNokia Corp.が開発した「Wibree」という仕様を低消費電力版Bluetoothとして丸ごと取り込んだ仕様。今後,ULPを利用したセンサ・ネットワークのプロファイルも策定するという噂もある。ZigBee対応の機器も最近,通信距離を短くする代わりにデータ伝送速度を1Mビット/秒に上げられるようにしたり,音声コーデックを搭載したりしてBluetoothの分野に進出しつつあり,BluetoothとZigBeeが低消費電力の無線の分野で真正面から競合する可能性も否定できない。

今回は,米Texas Instruments Inc.(TI社),Software - Low Power Wireless Technical Directorで,ZigBee AllianceのArchitecture Working Group chairmanであるDon Sturek氏に,ZigBeeの今後の見通しやBluetoothとの関係について聞いた。(聞き手は,野澤 哲生)

――ZigBeeの最初の仕様が登場してもう3年以上になるが,市場が立ち上がったようには見えない。その理由はどこにあると考えるか。

Sturek氏 特別遅れているわけではない。Bluetoothの場合も,仕様策定が始まった1998年から3年たってようやく製品が登場し始めた。ZigBeeの場合,Bluetoothと違ってネットワークとして利用するものであるため,そのメリットを理解するには,一定の手順と時間が必要になる。具体的には,ベンダーもユーザーも小規模ネットワークで利用してみて経験を積んでから,規模を拡大させていくという手順だ。

 米国では,既にビル管理やホーム・オートメーション,玩具,Automatic Meter Reading(電力メーターなどの自動読み取り),軍事用途に至るまでさまざまな分野での実用化が始まっている。車載用途では,タイヤ圧の検知などに利用される可能性がある。将来的には,ZigBeeの仕様はビル管理などで利用する大規模なシステムと,家庭向けのよりシンプルなシステムに合わせて,仕様が分化していくだろう。

――Bluetooth ULPと今後競合しそうだが

Sturek氏 それは正しいとは言えない。Bluetooth ULPは,master/slaveという親機と子機の関係で閉じてしまう技術で,ZigBeeのようなメッシュ・ネットワークを利用したマルチホップはできない。用途で言えば,Bluetooth ULPは携帯電話機に搭載されることはあっても,ZigBeeが想定するビル管理やホーム・オートメーションに利用するのは無理だ。TIは,BluetoothとZigBeeを両方手がけており,両技術が用途に合わせて互いに補完的な役割を果たせると考えている。(両方の用途が一部重なる)携帯電話機などでは,BluetoothとZigBeeのデュアル・チップを作る可能性があるかもしれない。

――ビルも家も最近は同じ2.4GHz帯の周波数を利用する無線LANなどの電波であふれている。電波干渉は問題ないのか。

Sturek氏 現在のZigBeeの最新仕様は,2006年に策定されたものだが,現在策定中の仕様「ZigBee Pro」は2006年の仕様に「frequency agility」という機能が加わることになる。これは,データ転送の誤り率が例えば2割を超えたら,通信チャネルを空いているチャネルに自動的に切り替えて利用するという技術。逆に他の無線に対しては,ZigBeeはもともと,デューティー比が小さい,つまりデータを間欠的に送受信する用途を想定しており,大きな影響を与える恐れは小さい。

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