米Seagate Technology LLC, CEOのWilliam D. Watkins氏
米Seagate Technology LLC, CEOのWilliam D. Watkins氏
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 2007年,HDDの部品業界に再編の嵐が吹き荒れた。2007年3月には,アルプス電気がHDDヘッドの資産の譲渡でTDKと合意(関連記事)。2007年6月末にはHDD大手の米Western Digital Corp.(WD社)が媒体メーカーのKomag社を買収した(関連記事)。フラッシュ・メモリにデータを記録するSSD(solid state drive)がHDD市場を侵食しようと攻勢を掛けるなか,さらなる再編が続く可能性がある。

 今後2~3年のHDD業界の見通しについて,HDD業界首位の米Seagate Technology LLC, CEOのWilliam D. Watkins氏に聞いた。

(聞き手=浅川 直輝)



――ノート・パソコン向けにSSDが相次ぎ発売されている。HDDとSSDは今後,どのように市場を分けるのか。

Watkins氏 2010年には,30Gバイト以下の用途ではSSD,30Gバイト以上ではHDDと棲み分けるとみている。もしフラッシュ・メモリが「書き換え可能回数の少なさ」という弱点を克服すれば,の話だが。

 SSDの方がHDDより性能で優れるとの意見があるが,それは神話だ。HDDとフラッシュ・メモリを組み合わせたハイブリッドHDDは,消費電力の削減や起動時間の短縮といった点でSSDとそん色ない性能を持つ。

 そうなると,SSDとHDDとの棲み分けを考える上で最も重要なのは,1Gバイト当たりの価格だ。2010年には,50GバイトのSSDを50~60米ドルで入手できるほどに価格が下がる。だが,その間もHDDの記録密度は向上し,同じ価格帯で250Gバイトの2.5型HDD,160Gバイトの1.8型HDDが買えるようになる。

――Seagate社は2005年末に米Maxtor Corp.を買収し,部品メーカー再編のきっかけの一つを作った(関連記事)。その後,HDDメーカー間の競争はどのように変わったのか。今後のHDDの市況について教えて欲しい。

 今後3~4年は,HDD市場は台数ベースで10%以上の伸びを示すだろう。HDD業界が真にライバルと見做すべきは,SSDではなく光ディスクだ。光ディスクの代わりにネットワークを通じたコンテンツ配信が広がれば,配信サーバー,受信用STB,さらには車載AV機器に載るHDDの数が増えるだろう。

 ただし,1台当たりの価格の下落は続いている。今の価格は,私にも理解ができないほど低い。というのは,ある競合企業が,数億米ドルの赤字を出しながら攻撃的な低価格攻勢を仕掛けているからだ。

 その競合企業は,赤字の理由として「他社の低価格攻勢に遭っている」と主張したというが,それは違う。我々は「原価割れでは売らない」という原則を貫いている。その競合企業が巨額の赤字を計上したことは,原価割れを覚悟で低価格攻勢を仕掛けたことを如実に表している。

――WD社は,媒体メーカーの米Komag社を買収した。この決断はHDD業界にどのような影響を与えるか。

Watkins氏 WD社はとても賢いな決断をした,と評価している。むしろ驚いたのは,日本の媒体メーカーがKomag社を買収しなかったことだ。私なら絶対に買っていた。

 WD社が媒体を内製できるようになったことで,媒体の市場は縮小する。米Hitachi Global Storage Technologies, Inc.と富士通も内製しているから,媒体メーカーの顧客は韓国Samsung Electronics Co., Ltd.と東芝だけ。恐らく,日本の媒体メーカー3社のうち一社は,業界再編で消えることになる。あるいは,Samsung社がいずれかの企業を買うかもしれない。

 HDD用ヘッドの業界では,媒体に先駆ける形で再編が起きている。2007年3月にTDKがアルプス電気のHDDヘッド事業の資産を買収することを決めたのは,Samsung 社が買収する事態を防ぐためだろう。賢い選択だと思う。

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