図1 第1回宇宙日本食認証式の様子。
図1 第1回宇宙日本食認証式の様子。
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図2 宇宙日本食に認証された食品。
図2 宇宙日本食に認証された食品。
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図3 例えば,味噌汁のような宇宙食を調理する場合はこのような状態になる。
図3 例えば,味噌汁のような宇宙食を調理する場合はこのような状態になる。
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図4 宇宙日本食の液状食品向け容器包装で採用されている吸い口。未開封の吸い口(左,奥)上部をねじ切るようにして開ける。ねじ切った部分は本体と紐で繋がっており,ひっくり返せばフタとして閉められる。
図4 宇宙日本食の液状食品向け容器包装で採用されている吸い口。未開封の吸い口(左,奥)上部をねじ切るようにして開ける。ねじ切った部分は本体と紐で繋がっており,ひっくり返せばフタとして閉められる。
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図5 液状の食品に向けた容器包装。赤い○で囲った部分はシールすることでロウトのように細くなっている。
図5 液状の食品に向けた容器包装。赤い○で囲った部分はシールすることでロウトのように細くなっている。
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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する宇宙飛行士に供給するための加工食品として「宇宙日本食」を認証した(図1,ニュース・リリースTech-Off!関連記事)。同様の長期滞在向け宇宙食を米国は約200種,ロシアは約100種持っており,日本の取り組みは遅れていた。2007年6月27日に発表された第1回認証審査結果では,お吸い物やラーメン,カレーなど12社29品目が認証基準を満たし合格となった(図2)。2008年度中に予定されている宇宙飛行士 若田光一氏のISS滞在中の採用を目指しているという。

 宇宙日本食は特に日本の伝統的な食品に限ったものではなく,日本で日常的に食べられている食品を対象としている。認証基準としては,製造設備の衛生管理体制などのほかに,製造設備の調査を行う必要があるため,最終製造工程は日本国内にあることを要求している。素材については日本製でなくてもよい。

 食品そのものに対しては,「O-157試験で陰性であること」などの衛生性や栄養性などのほか,無重力空間で水分が飛び散らないように粘性が600mPa秒を上回ること,常温で12カ月の保存できること,といった長期宇宙滞在向けならではの条件が定められている。今回宇宙日本食に認定された食品は,基本的には一般の民生用のものとほぼ同じか,基準を満たすように食品メーカーが改良したものであるという。

宇宙食品包装に日本の民生技術を

 一方,これらの食品を入れるの容器包装については大日本印刷の協力のもと,JAXAが独自に開発した。既にNASA(National Aeronautics and Space Administration)などは20年以上前に長期滞在用宇宙食の容器包装を開発し,それを使い続けている。こうした既存品を利用しなかった一因を「今の日本であれば,民生品に(NASA開発品と)同等以上の性能を持ち低価格なものはたくさんあるはず,と考えて独自品を開発した」と,同機構有人宇宙技術部 主任開発員の中沢孝氏は説明する。

 例えば,一部容器包装の袋部分に使われているのは民生品に使われているものと同じで,外側から順にPET,ナイロン,ポリエチレンを積層した3層構造のフィルムを採用する。さらにガス遮断性や遮光性などを高めるため,アルミパウチで密閉する。

 特に工夫したのが,スープやジュースなどの液状の食品用の容器包装である。こうした液状の食品は,粉末化した液体の素とフリーズドライ加工した具材を容器包装に密閉した状態でISSなどへ輸送し,針のような専用の器具を使って加水機構から湯や水を注入して調理し,その容器包装のままストローなどを使って食べる(図3)。

 宇宙飛行士の若田氏が以前,NASAの容器包装を味噌汁に利用してみたところ,内径約3mmのストローでは具材が詰まってしまい,汁を吸う事すらできなかったという。一方,ロシアが採用する袋状のストローのようなものの場合,内径は大きくできるがぺらぺらしていて非常に飲み辛いということが分かった。そこで採用したのが内径11mmの短い吸い口である(図4)。湯や水を注入した後に吸い口の上部をねじ切って飲用する。ねじ切った部分は逆向きにはめてフタとして使える。このような特殊な吸い口だが,もともとは民生品向けに開発されたものだった。

 容器包装自体の形状も工夫した。吸い口の下をロウトのように細くした部分は「仮止め」のために設けた(図5)。途中で飲むのをいったん止めたい場合,従来の宇宙食品用包装容器ではストッパと呼ばれる部品でストローの一部を挟んで液体が漏れないようにしている。今回のJAXAの容器包装では,吸い口部分をストッパで挟むことはできない。また,容器包装本体をストッパで挟もうとすると,大型のストッパを用意することになる。そこで,ロウトのように細くなった部分を指で挟んで仮止めし,吸い口部分のフタを閉めて密閉するという方法を採用した。

 容器包装にはマチを設けた。輸送・保管時にはコンパクトになり,飲用時は湯や水をたっぷり注ぐことができて飲みやすい。日本では一般にマチ付きのパウチをよく見かけるが,海外での採用事例は意外に少なく,「日本の包装技術が生きた形状にできたのではないか」(中沢氏)とする。

で,宇宙日本食のお味の方は…