SiBEAM社のLeMoncheck氏
SiBEAM社のLeMoncheck氏
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 米カリフォルニア州のベンチャー企業であるSiBEAM,Inc.は,2007年6月27日,東京で記者説明会を開催し,60GHz帯を使うミリ波通信用チップセットの開発状況について説明した。薄型テレビやセットトップ・ボックスなどに搭載し,HDMIなどが担うHDTVの非圧縮伝送を無線で実現することを狙う。チップセットの発売時期は未定としているが,2008年初頭に米ラスベガスで開催予定の「International CES」で,実演を行う予定。

WirelessHDの仕様も夏ごろに

 60GHz帯を使うミリ波通信用チップセットは,AV機器間の無線動画伝送向けに注目を集めている。2006年10月には,ソニーや松下電器産業,東芝,韓国Samsung Electronics社などが,ミリ波利用のHDTV伝送の普及促進団体「Wireless HD」を立ち上げていた(Tech-On!の関連記事)。

 SiBEAM社はWirelessHDの中心となる企業で,物理層などの仕様作りでも主導的に関わってきた。WirelessHDの仕様自体はまだ完成していないが,「夏ごろには正式仕様がある程度まとまる予定」(SiBEAM社)という。このほかWireless HDで活動している東芝も最近,ミリ波無線向けICの要素技術について発表していた(Tech-On!の関連記事)。

 SiBEAM社の開発中のチップセットは,CMOSプロセスを利用する。「130nmか,それ以下のプロセスを利用する」(SiBEAM社)。36素子の微小アンテナ・アレイを集積した20mm角程度のRFトランシーバ・モジュールと,デジタル・ベースバンド/MAC処理LSIで構成する。RFトランシーバ回路にアンテナを直結する形状にしているのは,「ミリ波は伝送路での信号損失が大きいため,RFトランシーバ回路とアンテナ間の距離を極限まで短くする必要があった。このため,RFトランシーバ回路とアンテナ素子を一体化したモジュールを実現した」(SiBEAM社)。同モジュールはセラミック・パッケージを使っており,日本のモジュール・メーカーも開発に協力しているという。ただし,協力メーカー名は明らかにしていない。このほか,デジタル側のチップは,WirelessHDの規格が策定中のため,今はFPGAで実現している。

4Gビット/秒で動画伝送

 最大4Gビット/秒のデータ伝送速度を,10mの伝送距離で実現することを目指している。利用するチャネルの帯域幅は2GHz程度。SiBEAM社は既に,60GHz帯を使った無線伝送システムを試作している。ただし今回の記者説明会にはシステムを持ち込んでおらず,動画伝送デモの様子をビデオで放映した。FPGAを使ったベースバンドおよびMAC処理部と,RF部のボードを使って実演していた。

 SIBEAM社は2004年に創業したファブレスの半導体メーカー。米University of California BerkeleyのBob Brodersen氏らの研究成果を基に起業した。Brodersen氏はCMOSプロセスを使った無線チップの開発成果で著名で,米Atheros Communications社の共同創業者でもある。SiBEAM社のPresident兼CEOであるJohn E.LeMoncheck氏の前職は,米Silicon Image社であり,HDMIの事業戦略を担当していた。日本で記者説明会を開催した理由についてLeMoncheck氏は,「日本には多くの大手AV機器メーカーがある。日本で,会社の存在をアピールする必要があった」としている。

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