最近,有機ELパネルの話題が事欠かない。ソニーが2007年内に11型の有機ELテレビを発売することを宣言(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2)。東芝も,2009年には30型級の有機ELテレビを市場に投入することを計画している(Tech-On!関連記事3)。また,モバイル機器においても,KDDIが携帯電話機の2007年春モデルからメイン画面に有機ELパネルを採用するなど,確実にその市場を増やしている。

 「ポスト液晶」の本命として急速にクローズアップされてきた感のある有機EL。この勢いが果たして持続するのか,どこでビジネスとして本格的に参入すべきなのか。パネル・メーカーはもちろんのこと,セットメーカー,製造装置メーカー,材料メーカーなどの関係者が,その動きに注目している。

 ここでは,有機ELやフラットパネル・ディスプレイの関係者に対して参考となるように,日本において公開されている「有機EL材料特許」に関して分析した結果を報告する。有機ELを構成する材料に関する特許の傾向を分析することで,どのような技術に注目すべきなのか,競争力のある材料メーカーはどこなのか,といった判断ができるはずだ。

 分析には,PCI (Patent Competency Index)と呼ぶ指標を利用した。PCIとは,公開されている特許情報をもとに,権利としての強さや,特許に対する注目度などを加味して特許を保有する企業の技術力を測るための指標で,SBIインテクストラが独自に開発したものだ。


●図1 有機EL材料(全体)に関する特許の出願件数(図はクリックすると拡大します)

 有機EL材料に関する特許の出願は,1985年以降微々たるものだったが,1998年あたりから徐々に増え始めた。そして2002年~2005年に,その件数を大きく伸ばした。この時期に,有機EL材料の新たな適用分野などが注目されはじめた可能性が高い。


●図2 有機EL材料(全体)に関する特許の出願人数の推移(図はクリックすると拡大します)

 特許の出願人数に関しては,2002年~2003年にピークを迎えているが,2004年にはそれが急速に減少に転じている。図1に示すように,出願件数は2004年にピークを迎えているのにも関わらずだ。
 この傾向から,次のようなことが推定できる。すなわち,2003年までは多くの企業が可能性を夢見て特許を出願していたが,2004年以降に関しては,この分野において勝ち残った企業が事業化に向けて継続して特許を出願する姿に変化した。よって同一の出願人によって出願されているケースが多くなった,との推定である。
 また,出願人が少ないということは,各企業が単独で出願しているケースが多いと想定できる。今後,技術提携/アライアンスが活発になる可能性がある。


●図3 2000年~2006年に出願された特許の出願件数シェアとPCIシェア(図はクリックすると拡大します)

 2000年から2006年の期間に出願されて公開された特許の件数は2257件。これを出願件数シェアで見ると,セイコーエプソンのシェアが13%と一番高くなる。
 一方,PCIシェアで見ると,出光興産が31%と最も高くなる。出願件数では,出光興産のシェアは7%なので,PCIという指標で見た場合にシェアが著しく伸びたことになる。そのほかにも,コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクスが出願件数シェア1%からPCIシェア14%,富士フイルムが出願件数シェア3%からPCIシェア10%と,PCIシェアの方が割合が高く,技術的に競争優位にいると考えられる。


●図4 2000年~2006年に出願された特許の出願件数とPCIスコア(図はクリックすると拡大します)

 出願件数で見ると,多くの企業が活発に出願を行っており,研究活動が盛んな様子が伺える。その一方で,技術競争力の指標としてみることができるPCIのスコアでは,出光興産が他社を圧倒して,高い数値を示している。同社は,いろいろな企業と技術提携/アライアンスを結んでいるが,これには技術的な後ろ盾が大きいことが分かる。


●図5 特許の出願件数を近年(2000年~2006年)と過去(1985年~1999年)に分けて,各社比較した結果(図はクリックすると拡大します)

 出願件数の多い会社の中でもセイコーエプソン,三洋電機,コニカミノルタホールディングスは,件数のほとんどを2000年以降に出願しているのが分かる。一方で出光興産は,1999年以前から安定的に出願している。また東洋インキ製造は,最近になって出願件数が少なくなっている。


●図6 PCIスコアを近年(2000年~2006年)と過去(1985年~1999年)に分けて,各社比較した結果(図はクリックすると拡大します)

 出光興産が技術競争力において圧倒的に優位になっているのは,1999年以前に築いた技術的土台の上で,さらに近年の研究開発を進めて効果を上げているからと予測できる。一方で,コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクスや富士フイルムは,2000年以降に技術競争力の高い出願を行っていることがうかがえる。


    今回の分析条件

    【分析対象】→有機EL材料特許
    1985年以降の日本公開特許を対象に,「発明の名称」「要約(課題)」「要約(解決手段)」「請求項」に,『有機ELまたはOLED』のキーワードを含む特許を抽出した後、更に以下の条件で,材料に関する特許のみを抽出した。
    ●「発明の名称」「要約(課題)」「要約(解決手段)」「請求項」に以下のキーワードのいずれかを含む特許
    正孔材料,低分子,高分子,基板材料,封止材料,正孔輸送材料,発光材料,電子輸送材料,電荷輸送,封止材,アルキル基,炭素,陽極,透明電極,ITO,IZO
    ●IPCに以下のいずれかを含む特許
    C09K11/06, H01L51/54, H01L27/28, H05B33/06, H05B33/28, G09F9/30, H01L27/32, H05B33/14

    【本分析に利用したPCI指標】
    全分析対象特許に対し,「他社からの注目度を示すPCI指標項目」に80%,「自社の注力度を示すPCI指標項目」に20%のウェイト付けを行なって各特許のPCI値を算出した後,特許のステータスにより以下のパーセンテージをかけて算出した。
    登録特許:100%,審査請求済み特許:50%,公開済み特許:30%,消滅特許:0%


※ 有機EL分野を含め,液晶,PDP分野の技術競争力の分析については,日経BP社発売 緊急レポート『大同団結する韓国ディスプレイ業界-日本企業との技術競争力を比較 』でご覧いただけます(詳細はこちら)。