情報通信研究機構(NICT)は通信技術やサービスの総合展示会「INTEROP/IMC TOKYO 2007」(千葉県・幕張メッセ,2007年6月13~15日)で,NICTと東京大学が共同開発した「二次元通信システム」を実演した。電気信号の伝送媒体として専用の平面シートを用いる技術で,通信だけでなく電力の伝送も可能である。無線周波数がひっ迫する中,無線を使わない新しいワイヤレス通信の伝送媒体として利用できるという。
二次元通信システムは,東京大学大学院 情報理工学系研究科 准教授の篠田裕之氏の研究グループが考案した伝送技術。ブースでは,この媒体にパソコンからBluetoothの2.4GHz帯の電気信号をそのまま流し,パソコンのキーボードとの双方向通信を実演した。さらに,2.3GHz帯の交流信号もシートに「入力」し,自転車用のライトや音楽スピーカー,回転するオモチャなどに給電してみせた。
シートは,1mm超厚の誘電体シートの上に幅1mm超,厚み0.08mmの銀(Ag)のラインを7mm間隔でメッシュ状に配線し,その上に透明シートを被せたもの。ここに,送受信インタフェースを用いて電気信号を入力すると,電磁波がシートを2次元的に伝播して広がる。この電磁波を別の送受信インタフェースで受信して通信や給電が実現する仕組みである。
送受信インタフェースを置く場所は,シートの不特定の場所でよく,インタフェースとシートとの間に金属端子の直接的な接触はない。東京大学 准教授の篠田裕之氏によれば「シートのインピーダンスをうまく選ぶとシートの表面にエバネッセント波がしみ出るようになる。そのエネルギーはインタフェースがない場合は入力エネルギーの1%ぐらいだが,インタフェースがある場合はそこからエネルギーを効率的に吸い上げていく」という。エネルギーが伝送されるのは,電磁場の共振現象(Q値は10前後)によるためで,「静電結合と誘導結合(電磁誘導)の両方が起こっている」(篠田氏)という。
送受信インタフェースには,非接触充電に用いるような大きな電磁誘導用コイルは見当たらず,受動部品の類が配置されたプリント配線基板がついているだけである。
有線と無線の良いとこ取りに
こうした二次元通信システムのメリットは,周波数の利用の規制が小さい「有線扱い」のまま,ワイヤレスの使い勝手を享受できる点である。「電磁波を2次元シート内に閉じ込めて利用できるため,利用がひっ迫している無線周波数とは独立に搬送波の周波数を選べる。シートから空間に伝播していく電磁波はほとんどない」(NICT)という。
周波数の選択の自由度が高い点を生かせば,通信用には高めの周波数,電力伝送用には低めの周波数と,用途によって周波数帯を大きく変えることも可能になる。「通信は搬送波の周波数が高いほど帯域が広くなり,電力伝送は周波数が低いほど伝送効率が良くなる。通信用には8GHz帯を使うことも想定している。これなら,ギガビット級のデータ伝送速度も可能になる」(NICT)。
【お断り】当初の記事では,「電気信号や電力をやり取りする仕組みは原理的には電磁誘導」という展示現場の説明を掲載していましたが,その後,このシートを開発した東京大学 准教授の篠田裕之氏により,「静電結合と誘導結合(電磁誘導)の両方が起こっている」などという補足説明がありました。記事はこの説明に基づき修正済みです。