◎図1:Teleglass T3-Fを装着する山本社長。左が画像表示部を見ている状態。右が画像表示部を収納した状態。
◎図1:Teleglass T3-Fを装着する山本社長。左が画像表示部を見ている状態。右が画像表示部を収納した状態。
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 スカラ(本社東京)は,電車での通勤時など日常生活においても着用できるヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)「Teleglass T3-F」を開発した。メガネの両側にあるツル(テンプル)のいずれか片側に装着し,画像表示部を目の前に突き出して利用するタイプ。2m先にある28型相当の画像を映し出す。価格は9万8000円(消費税別)で,2007年5月22日から同社のWebサイト,および九十九電機の本店(東京・秋葉原)で販売する。

 これまでのヘッド・マウント・ディスプレイは,両目を覆って大きな画像を映し出すゴーグル型が主流。これを街中で装着したら,周りが見えにくく危険な上に,その姿は人々から異質な存在として見られてしまう。その点Teleglass T3-Fは,片側の目は解放されている上に,画像表示部がある側もすべての視界が覆われているわけではないので,映像を見ているときでも周りが十分に見える。さらに画像表示部は,ボタン操作一つでテンプルと並行した位置に引っ込めて収納できる機構を搭載。画像が不要なときは,視界を全く遮らないようにした(図1)。また,メガネに装着しているので,街中で掛けていても大きな違和感がなくなったのも特徴だ。

 「毎日,満員電車の中で通勤地獄に多くの時間を費やしている方がいる。このHMDによって,通勤地獄を天国に変えられる」(スカラ技術部部長の清原大三氏)。ミュージックビデオや英会話のビデオなど,好みのものを通勤中に鑑賞してほしいという。

板ばね使って表示部を直角に曲げる

 メガネに装着する画像表示部の重さは約35gと軽量。長時間の着用でも疲れないという。画像表示部には0.24型でQVGAの透過型液晶パネルを搭載。新たに開発したプリズムレンズを利用して,液晶パネルの画像を映し出す。「プリズムレンズの形状を工夫することで,軽量化,薄型化を実現した」(スカラ社長の山本正男氏)。同社はこれまで,デジタル顕微鏡などの光学・分析機器を開発してきたが,その光学技術を役立てたとする。

 画像表示部は,テンプルに並行な状態からメガネレンズに並行な状態まで,直角に曲がるように駆動しなくてはならない。この機構をコンパクトに実現するため,板ばねを活用。液晶パネルとプリズム部分を板ばねの先端に固定し,その板ばねを先端部が直角に曲がったガイドに沿って駆動する機構を採用した(図2)。

 電源には単3乾電池2本を使用し,電池は画像表示部とケーブルでつながった専用コントローラに収容する。電池2本で連続使用できる時間は約4時間。ただし,「産業用途に利用する場合は4時間では短い。2次電池などを利用することで,長時間連続して利用できるタイプを現在開発中」(山本社長)という。

メガネは鯖江市を巻き込んで開発

 Teleglass T3-Fは,専用のメガネに装着して利用する。というのも,装着するためには特殊な突起がテンプルに必要となるからだ(図3)。9万8000円で発売するキットには,画像表示部,コントローラ,映像機器と接続するケーブル(iPod用やNTSC方式の映像機器用など)と一緒に専用メガネが同梱されている。視力が低い場合は,同梱されているメガネに,自分に合ったレンズを入れることになる。

 メガネは,福井県鯖江市を中心とした地域にある複数のメガネ業者と共同で開発した。この結果,チタンを素材に利用し,軽量でありながら強度を確保したものとした。鯖江市周辺の地域は,国産メガネの90%以上を製造している。今後はこれらのメガネ業者から,装着するのための突起を備えた,様々なデザインのメガネが発売される予定だ。

 またこの突起は,いろいろな機器を装着するためにも利用できる。MP3プレーヤーやデジタル・カメラなどの機器だ。スカラが他の機器を発売する予定はないが,この突起を利用した機器の着脱方式がデファクト・スタンダードになっていけば,メガネが様々な機能を持つ情報機器として変化していく可能性があると同社はみている。

初年度で3000台の販売が目標

 Teleglass T3-Fは,通勤中に装着できるといっても価格が高いだけに,まずは産業用途に広がるとスカラは踏んでいる。現在は,大学病院に協力を依頼し,手術用のモニターとしての実験を行っている最中。手術の際には心電図などの各種モニターを確認する必要がある。HMDがあれば,視線を大きくずらさずにモニターが確認できる。

 そのほかにも,災害・工事などハンズフリーでの使用が求められる現場での使用や,分厚いマニュアルを電子化して画像で表示するなどの用途に有効。初年度で約3000台の販売を見込んでいる。

◎図2:Teleglass T3-Fを横から見た。銀色に見えている板ばねをモータで動かす。
◎図2:Teleglass T3-Fを横から見た。銀色に見えている板ばねをモータで動かす。
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◎図3:メガネに設けた専用の突起。突起は着脱式になっている。
◎図3:メガネに設けた専用の突起。突起は着脱式になっている。
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