上にアンテナがある。HDTV映像信号の転送,ビデオ会議,WWW閲覧,大容量ファイルのFTP転送を同時に実施。
上にアンテナがある。HDTV映像信号の転送,ビデオ会議,WWW閲覧,大容量ファイルのFTP転送を同時に実施。
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 米QUALCOMM Inc.はCTIA Wireless 2007で,CDMA2000 1xEV-DO Revision C(Rev.C)の草案に準拠した機器を用いた通信のデモンストレーションを初公開した。Rev.Cは,CDMA技術の開発や仕様の策定を行っている米CDMA Development Group(CDG)が2006年12月に「Ultra Mobile Broadband(UMB)」と命名した技術。データ伝送速度は最大で280Mビット/秒と超高速である。ただしこれまでは実証例がなく,通信事業者の中からは,サービスの想定に入れるには時期尚早との声も多く出ていた。今回のCTIAでは,QUALCOMM社のほかにもUMBのデモを予定している機器メーカーもいる。「机上の仕様」を卒業しつつあることで,モバイルWiMAXとの競争が激化しそうである。

 Rev.Cは,OFDMAと呼ぶ多元接続技術など,無線LANやWiMAXが採用している技術を一部取り入れ,広帯域の周波数チャネルに対応した技術。従来のCDMA技術では,チャネルを20MHzなど広帯域にすると受信器が非常に複雑になり,高コストになる恐れがあった。Rev.Cの標準化が始まったのは2006年春だが「もうすぐ標準化作業が終わる」(QUALCOMM社)と非常に短期間で仕様が確定する見通しである。QUALCOMM社はIEEEで「IEEE802.20」としての標準化も同時に図っていたが,こちらは策定作業が進んでいない。2006年10月に,IEEEの事務局から仕様策定のやり直しを勧告されたためである。

デモは2×2 MIMOで下り40Mビット/秒

 今回のQUALCOMM社のデモは,HDTV映像信号の伝送,ビデオ会議,WWWの閲覧,大容量ファイルのFTP転送を,一つの通信チャネルで同時に行うというもの。2.17GHz帯で20MHz幅の周波数チャネルを用い,20MHzを上りと下りで半々に分けた上で,「下り最大40Mビット/秒,上り最大10Mビット/秒の実効データ伝送速度を得られている」(QUALCOMM社)。こうした伝送速度は,システムに2×2 MIMOを実装して実現している。デモでは,どれか一つのアプリケーションが停止した場合は,適応的にほかのアプリケーションに帯域を割り当てる機能も実演した。

 Rev.Cの課題は,モバイルWiMAXに比べて出遅れたことや,従来のRev.AやRev.BではCDMA向けの基地局をファームウエアで対応させることができたが今回は「技術の系統が違うのでできない」(QUALCOMM社)ことなどである。同社は「2009年には商用サービスを開始できる」と主張する。すでにモバイルWiMAXのサービスを始めている韓国や2007年末に同サービスが始まる米国はともかく,日本などではモバイルWiMAXもそのころに始まる見通しであるため,通信事業者の選択肢になり得る可能性がある。ただし,これまで同社の技術の最大の強みだった,ファームウエアでインフラを新しい仕様に更新できるというメリットなしで,通信事業者が採用するかどうかは依然として不透明である。