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30年以上も使われ続けている機械がある。頑丈な生産機械ならありそうな話だけど,これは小さな日用品だ。大きさといい,構造といい,数年間で使い捨てにされる家電製品に近い。この長寿を可能にしたのはレンタルというビジネス手法だ。「買い替えさせよう」という動機がないから,計画的陳腐化をさせなくても,商売がうまくいく。

 トイレでよく見掛ける銀色の箱がある(図1)。小用の間はほかにすることもないから,目の前にあるあの箱をじっと見詰めちゃったりするよね。だから結構覚えているんだけど,正面には「Calmic」と書いてある。あれは日本カルミック(本社東京)という会社の製品で「サニタイザー」という。箱からは水洗が終わるころに洗浄剤,殺菌剤が溶け出してくる。汚れ,におい,尿石,排水管の詰まりなど,トイレにまつわる問題を解決する。

 カルミックはサニタイザーをはじめとする機器をユーザーにレンタルしている。逆に言えば売らない。カルミックは「商品でなく『効果』を買っていただく」と表現する。ユーザーは液の補充も保守も,何もしない。カルミックの社員が来て,ピカピカに磨き上げて帰っていく。

古いものこそカッコイイ

 おかげで耐用年数は一生涯保証だ。よく見ると違うものもあるが,あれは前のタイプだ(図2)。もっと古いものも現役で働いているから,探してみるとよい。会社ができたのは1969年,それからしばらくして設置を始めたから,初期のものは32~33年たっていることになる。

 普通の商品では,あまり古いものを使い続けていると貧乏くさくなるが,古いサニタイザーは年輪を感じさせて,なかなか美しい。むしろ一流ホテルなどへ行くと古いものが多い。昔,最初に導入を始めたのが一流ホテルだったという事情もあるんだけど,それだけじゃない。一流ホテルは壁にも大理石を使ったりして凝った内装をしている。サニタイザーがうまく溶け込むようにデザインしてある。だから古いタイプのものを使い続けたいというニーズがあるんだ。それで30年以上。すごいよね。