三菱電機は,既設の一般加入者側光ファイバー(FTTH)網(光アクセス網)を利用して,現行の10倍となる10Gビット/秒の伝送速度を達成するという光送受信用IC4種を開発した(発表資料)。

 現在の光アクセス網では,1本の光ファイバーを分岐して複数の加入者を収容するため時分割多重通信(TDMA:time division multiple access)を行うPON方式のうち,B-PONやGE-PONが商用化されているが,伝送速度は1Gビット秒程度。10Gビット/秒のPON(10G-PON)を実現するには,加入者ごとに異なる信号の送出タイミングや強度を補償するバースト信号(間欠的データ列)送受信技術に課題があった。同社はこの課題を解決し,10G-PONシステムの基本要素デバイスとなる光送受信用ICを開発した。実用レベルでは世界初の10G-PONバースト送受信用ICとしている。

 今回開発したのは,局舎側装置(OLT)向け3種と加入者宅側装置(ONU)向け1種。従来のGE-PON用と比較して,機能・大きさは同程度を保ちつつ,高速化したという。OLT向けはプリアンプおよびリミッティング・アンプとCDR(clock and data recovery)-LSIのバースト受信用チップセット,ONU向けはバースト送信用レーザ・ドライバで,それぞれ以下のような機能と特徴がある。

 バースト受信用プリアンプは,加入者宅から局舎までの距離に応じて生じたバースト光信号の強度差を一定レベルに揃える。今回のICでは,この強度差を吸収するAGC(automatic gain control)機能を10Gビット/秒に対応させることができた。

 バースト受信用リミッティング・アンプは,プリアンプで受信した低強度で波形の歪んだバースト光信号を,後段のLSIに渡せるレベルに増幅,整形する。今回のICは,バースト受信時に生じる波形歪みを抑えて増幅するATC(automatic threshold control)機能を搭載している。

 OLTで受信したバースト光信号は,位相にバラつきがある。CDR-LSIは,受信信号から位相を検出し,受信データを再生するためにクロックを抽出する。今回のLSIには,GE-PONシステムで実績があるとする「8位相選択型CDR」方式を採用し,10Gビット/秒に合わせた識別・再生を1チップで可能にした。

 バースト送信用レーザ・ドライバは,光信号を送出するレーザ・ダイオードを駆動する回路。今回のICは,10Gビット/秒のバースト変調を1チップで行えるもので,これに成功したのは業界初と主張している。

 今回の研究成果について,5件の特許を出願済み。今後は,これらのICを搭載した10G-PON用送受信器の開発や,それを用いたシステムの構築を進める。

三菱電機が開発した光送受信用ICとそれらを用いた10G-PONシステムの機能構成図
三菱電機が開発した光送受信用ICとそれらを用いた10G-PONシステムの機能構成図
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