受信器のプロトタイプ機
受信器のプロトタイプ機
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送信器のプロトタイプ機。HDMIを介してDVDプレーヤと接続している
送信器のプロトタイプ機。HDMIを介してDVDプレーヤと接続している
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Tzero社の創業者でCTOを務めるRajeev Krishnamoorthy氏
Tzero社の創業者でCTOを務めるRajeev Krishnamoorthy氏
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 「Wireless HDMIは2007年下期に登場する」--。HDTV映像の無線伝送技術を展開する米Tzero Technologies,Inc.は,同社のチップセットを搭載した機器が2007年下期にもお目見えする見通しを明かした。Tzero社は映像伝送に向けて無線伝送技術「UWB」のチップセットを2006年6月に発表,機器メーカーへの展開を進めている(Tech-On!の関連記事1)。UWBはパソコン市場で実用化を試みる動きが多いが,ここにきて映像機器へ展開を図る動きが表面化している。同市場に向けた取り組みについて,Tzero社の創業者でCTOを務めるRajeev Krishnamoorthy氏に聞いた。

(聞き手:堀切 近史=日経エレクトロニクス)

--HDMIの無線化に向けたUWBチップセットの発表から半年が経過した。これを搭載した機器が登場するスケジュールについて教えて欲しい。
Krishnamoorthy氏
 HDTV映像を無線伝送したいというニーズは大きい。1月の2007 International CESに外付け型のUWB無線機器のプロトタイプ機を出展したところ,強い手応えを感じた。機器の製品化時期は顧客が決めることだが,2007年下半期にも登場すると見込んでいる。当初は,HDMIを介して送信器や受信器をDVDプレーヤとテレビと接続する外付け型構成となる。米国や日本などで販売される見通しだ。テレビやDVDプレーヤなど映像関連のデジタル家電は,とりわけ日本メーカーが強い。このため我々は日本メーカーへの提案を強化しているところだ。
 送信器や受信器を機器内部に実装する内蔵型の開発も進んでいる。外付け型の製品化から数カ月後には,内蔵型も登場するだろう。いずれも年末のクリスマス商戦には,本格的な引き合いが始まるのではないだろうか。

-- 外付け型と内蔵型では,実装面においてどのような違いがあるのか。
Krishnamoorthy氏
 アンテナは変更する必要があるものの,それ以外の点では技術的な違いは無い。
 内蔵型の場合,機器の設計や構成に応じてアンテナの実装位置を変える必要がある。ちょうどノート・パソコンに無線LANを内蔵する場合に,メーカーによってアンテナの場所が異なるのと同じだ。

--HDMIの無線伝送は,米Sigma Designs,Inc.やオランダRoyal Philips Electronics社なども技術開発を進めている(Tech-On!の関連記事2関連記事3)。
Krishnamoorthy氏
 伝送品質の点で,我々は競合をはるかにしのぐ性能を得ていると自負している。MIMO技術を組み合わせて,パケット誤り率(PER)は10-8以下と極めて良好だ。映像が途中で止まったり,途切れたりすることはない。
 映像伝送に向けたUWBチップセットとしては,我々が最も早期に製品化していることも優位点だろう。実演を披露した競合メーカーには,まだFPGAで動作しているものもあるようだ。
 そもそもTzero社は,映像伝送向けUWB技術で先行することを狙って設立した会社である。さらにこの第1世代品は,設計をチップに起こす過程は1度だけで済んだ。通常は2度,3度と設計修正の工程が必要になるものだが,手戻りが発生していない。我々が競合に対して先行しているのは,こうした背景があるからだろう。

--HANA(High Definition Audio-Video Network Alliance)に参画する狙いを聞きたい(Tech-On!の関連記事4)。
Krishnamoorthy氏
 機器メーカーにチップセットを提案する過程で,マルチメディア通信に同軸ケーブルを使いたいとする需要を掴んだ。そこでHANAに対して,我々の技術を提案していくことを考えた。UWBの信号を,同軸ケーブルを使って伝送する構成である。
 技術的な難易度からすると,無線よりも同軸ケーブルの方が容易である。MIMOの技術も不要だ。ただし現在のところはまだ,提案を始めた段階。無線向けと同軸ケーブル向けで同じチップセットを使えるかどうかはまだ分からない。

--映像の符号化/復号化(コーデック)処理に,米Analog Devices, Inc.製のJPEG 2000チップを採用した背景は。
Krishnamoorthy氏
 コーデック処理にJPEG 2000を採用したのは,コストと性能がデジタル家電用途に最も適していたからだ。MPEG-2やH.264でもHDTV映像のコーデック処理は可能だが,符号化回路が極めて高価になってしまう。民生機器として妥当なコストで高品位のコーデック回路を実現するためにJPEG 2000を選択したわけだ。JPEG 2000チップの製品はそう多くなく,結果的にAnalog Devices社と提携することになった。
 我々はあくまで無線技術の会社である。良い技術があればJPEG 2000とは別のコーデック技術を選択する。ただし当面は,JPEG 2000を使うことになると思う。