写真 EPO PresidentのAlain Pompidou氏(左),特許庁長官の中嶋誠氏(中央),USPTO DirectorのJon Dudas氏(右)
写真 EPO PresidentのAlain Pompidou氏(左),特許庁長官の中嶋誠氏(中央),USPTO DirectorのJon Dudas氏(右)
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 特許庁,United States Patent and Trademark Office(USPTO:米国特許商標庁),European Patent Office(EPO:欧州特許庁)は2006年11月16日,共通様式の特許出願書類の導入や成果の相互利用の強化などで合意したことを明らかにした。同年11月13日から11月17日まで開催中の「第24回 日米欧三極特許庁会合」で合意したもので,11月17日の「長官会合」で合意内容について調印する。記者会見に臨んだ特許庁長官の中嶋誠氏は,「20世紀は特許制度普及の時代だった。21世紀の特許制度は,特許制度の各国間での調和,各国特許庁間での作業分担,特許庁とユーザーの間での作業分担,の三つがカギになるだろう」とした。

 主な合意内容として日米欧の特許庁は6個の項目を挙げた。(1)共通の出願様式の導入,(2)日米間の優先権書類の電子データでの交換,(3)日欧間の電子出願における協力,(4)特許付与手続きの改善,(5)審査実務の比較研究,(6)中国特許文献の整備,である。詳細は以下の通り。

(1)共通の出願様式の導入
 3極の特許庁が認める特許出願書類の様式を統一することを目指した取り組みを開始する。日本知的財産協会(JIPA)など日米欧の特許制度のユーザー団体による2005年11月の提案が基になった。まず,3極の特許庁が共通で出願を受け付けられる様式を策定し,2007年の早い時期に試行プロジェクトを開始する予定。共通様式の正式な採用時期は決まっていない。
 2005年の日米欧の特許出願件数のうち,約23%に当たる約22万件が3極間の相互での出願だった。JIPA 理事長の神杉和男氏は「出願書類の作成に1件当たり約30万円掛かっているとざっくり仮定すると,出願書類の標準化によって3極全体で約660億円のコスト削減ができる」とする。

(2)日米間の優先権書類の電子データでの交換
 海外での特許出願の際に必要な,自国の特許庁に出願した事実を証明する「優先権書類」と呼ぶ書類を電子データで交換することにより,優先権書類の発行と提出に伴う出願人の負担を減らす取り組みである。日本の特許庁とEPOとの間では1999年から電子データでの交換を開始しており,EPOとUSPTOの間では2007年1月から開始する予定になっていた。今回,特許庁とUSPTOは,2007年7月から優先権書類の電子データでの交換を開始することに合意した。

(3)日欧間の電子出願における協力
 特許庁は2007年1月に,PCT(patent cooperation treaty:特許協力条約)に関する出願をオンラインで行えるようにするコンピュータ・システムを導入予定である。今回特許庁は,導入するシステムの主要部として,EPOが開発したオンライン出願ソフトウエア「eOLF」を採用することでEPOと合意した。

(4)特許付与手続きの改善
 3極の特許庁が実施した調査や審査の成果を相互利用する取り組みを発展させることや,PCTに関する出願における事務手続きを効率化するための取り組みを進めることで合意した。成果の相互利用として,特許庁とUSPTOは,一方の特許庁が特許として認めた出願について,その調査や審査の成果を他方の特許庁が利用しながら早期審査を受けられるように決めた「特許審査ハイウェイ」と呼ぶ試行プロジェクトを開始済みである。こうした相互利用を発展させ,「特許庁間での作業分担を可能な限り広げていく可能性を探る」(特許庁長官の中嶋氏)。EPOは「大きな関心を持って特許審査ハイウェイの試行状況を見ている」(EPO PresidentのAlain Pompidou氏)とするが,今回は特許審査ハイウェイへの参加は表明しなかった。

(5)審査実務の比較研究
 実際の事例や仮想的な事例を用いて,3極の特許庁が発明の進歩性や特許出願の記載などの要件について審査の実務を行い,その実務を比較する研究を2007年3月に開始する。この比較研究の成果を公開することにより,出願人や代理人が審査実務に沿った出願書類を作成することを支援したいとする。

(6)中国特許文献の整備
 2005年の中国での特許出願件数は17万件以上であり,中国の特許文献の閲覧要求が急激に増大しているという。そこで,中国のState Intellectual Property Office(SIPO:中国国家知識産権局)に対して特許文献の英語版の公開を働きかけるといった解決策を検討していく。