オーバーレイマルチキャストの概念図
オーバーレイマルチキャストの概念図
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 映像配信サイト「Yahoo!動画」などを運営するソフトバンク・グループのTVバンクは,インターネット上で数万人のユーザーに対し,ほぼ同時に映像を配信できるシステム「BBブロードキャスト」を開発した。アプリケーション層でパケットを転送するP2P技術の一種「オーバーレイ・マルチキャスト(Overlay Multicast)」と呼ぶ技術を応用した。

 一般にIPネットワーク上で複数ユーザーに効率的に映像を配信するには,IPマルチキャスト技術が使われる。しかし,ネットワークを構成する各ルータがマルチキャストの各プロトコルに対応する必要があるほか,ISPの境界を越えた同報配信は実現しにくかった。今回の技術であれば,ユーザーがWWWブラウザにプラグインをインストールするだけで,通常のインターネット網を通じてIPマルチキャストに近い配信が可能になる。

送信トラフィックを1/5に

 TVバンクは,既に今回のBBブロードキャスト技術をYahoo!動画で実用化済みである。2006年9月22日の18:30~21:10には,今回の技術を使って「EXILE」のライブ中継を768kビット/秒の伝送速度で配信し,最大同時視聴者数2万5302人を実現した。一般的なユニキャスト方式での配信と比べて,送信トラフィックを約1/5に減らせたという。具体的には,768kビット/秒の映像を2万5302人に対して伝送すると,全体のトラフィックは19.4Gビット/秒となるが,今回の技術を使ったことで実際のトラフィックを4.2Gビット/秒に抑えることができた。

 USENの運営する映像配信サイト「GyaO」や今回のYahoo!動画のような広告型の無料映像配信サービスでは,いかに多くの視聴者に映像を見てもらえるかがカギになる。今回の技術は,こうしたインターネット経由の映像配信サービスのすそ野を広げるインパクトがある。例えばTVバンクによると,現在,一般的に使われているユニキャスト方式で数万人へ映像を配信すると,配信費用が数千万円に達してしまう。仮に地上テレビ放送の視聴率2%に相当する100万人に配信しようとすると,1Mビット/秒の伝送速度の場合に配信コストが4.5億円にもなる。「高々,2時間のライブを中継するのに,これほどの費用が掛かるようではビジネスが成り立たない」(同社)。このため,マルチキャストに非対応のルータが多数含まれる一般のインターネット網で,いかにIPマルチキャスト並みに配信効率を高めるかが,同時視聴するユーザー数を底上げする上で欠かせないポイントだったのである。

STB向け配信への適用にはまだ技術改善が必要

 ソフトバンク・グループではビー・ビー・ケーブルが,テレビに接続したSTB向けにIPマルチキャストを使った映像配信サービス「BBTV」を手掛けている。こうしたサービスでの配信は効率的ではあるものの,ISPを超えてマルチキャスト配信を実現することが実用上難しいため,ISPごとにコンテンツ・サーバーを設けることになる。結果として,対応するISPが限られてくるため,ユーザー数のすそ野を広げにくいという問題がある。

 なお,今回開発した技術をBBTVのようなSTB向けの映像配信に適用する可能性については,「ありうる。ただし,今回のBBブロードキャストは基本的には1つのチャンネルを配信することを前提としている。オーバーレイ・マルチキャストを使って,STB向け配信のようなチャンネルのザッピングを実現にしようとすると,チャンネル切り替え時の遅延など基本的な問題がある。まだ基礎研究が必要」(TVバンク システム統括部 統括部長の川原 洋氏)という。

EXILEのライブ中継のトラフィックとユーザー数の様子
EXILEのライブ中継のトラフィックとユーザー数の様子
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ソフトバンク ホークスの野球中継のトラフィックとユーザー数の様子
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