スタンパーの製造に,無機レジストを採用。レーザー光の熱を利用する。
スタンパーの製造に,無機レジストを採用。レーザー光の熱を利用する。
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0.1mmのカバー層の形成に,シート法に代えてスピンコート法を採用。コストダウンが可能になる。
0.1mmのカバー層の形成に,シート法に代えてスピンコート法を採用。コストダウンが可能になる。
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スピンコートで0.1mmという薄い膜を安定的に作るために,ディスク中央部の穴をキャップで塞いで,そこに樹脂をたらす手法を開発した。
スピンコートで0.1mmという薄い膜を安定的に作るために,ディスク中央部の穴をキャップで塞いで,そこに樹脂をたらす手法を開発した。
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スピンコートで形成したカバー層の厚みのバラツキは数μm以内。
スピンコートで形成したカバー層の厚みのバラツキは数μm以内。
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 ソニーは2006年9月1日,再生専用のBlu-ray Disc「BD-ROM」の国内量産ラインを報道陣向けに公開した。静岡県吉田町にある,ソニー・ミュージックマニュファクチュアリング(SMM)の静岡工場である。

 同社はBD-ROMの製造について,日本(静岡工場),欧州(オーストリア),米国の3拠点体制を築いており,2006年末に合計で月産1000万枚を生産する計画。内訳は静岡工場と欧州がそれぞれ月250万枚,米国が月500万枚である。

 Blu-ray Disc陣営は8月29日に,2006年11月からBD-ROMのタイトルを発売する,と発表している。現在,静岡工場では11月のタイトル発売に向けて,1層および2層のBD-ROMの生産を開始している。

無機レジストで工数大幅削減

 ソニーはBD-ROMディスクの量産化に際して,コストダウンのためにニつの技術を新たに導入した。一つは,ディスクにピットのパターンを転写する「スタンパー」の製造に,従来の有機レジストに代えて無機レジストを採用した点。もう一つは,ディスクに設ける0.1mm厚のカバー層の形成に「スピンコート」を採用した点である。

 スタンパーの製造には,従来から有機レジストを感光させる手法が使われてきた。これに対し,ソニーは金属系の無機レジストを使い,青紫色半導体レーザーで感熱させてピットを作る手法を開発した。半導体レーザーの熱によって無機レジストの照射部分が相変化を起こして結晶化する。結晶部分をアルカリ溶液で溶かしてピットを形成する。

 こうした感熱方式は,有機レジストを使った感光方式より微細なピットを形成できるほか,工程数が従来の12から5に減るのでコストダウンできる,としている。また,有機レジストを使う場合に比べ,薬品と廃棄物を削減できるメリットもあるという。

 ソニーはこの工程に基づくスタンパー製造装置「PTR-3000」を開発(同装置の発売を伝える記事)。既に松下電器産業なども,この装置を導入しており,現在9システムが稼動しているという。

サイクルタイムは5~6秒

 もう一つのポイントは,BD-ROMディスクのカバー層形成において,スピンコートを使って0.1mmと薄く,厚さが均一な層を作ることに成功したことだ。

 一般にBD-ROMディスクの製造工程は,1.ポリカーボネート基板の射出成形,2.反射膜の形成,3.カバー層の形成,4.ハードコート層の形成,という順番で進む。従来,カバー層は,ディスクに紫外線硬化型接着剤を塗布した後,ポリカーボネートのシートを載せ,紫外線を照射して接着させる手法が使われてきた。

 これに対しソニーは,紫外線硬化型樹脂をスピンコートでディスクに塗布し,紫外線を照射する。「シートを他社から購入するより材料費が安くなる上,工場内での工夫によりコストダウンできる余地が大きい」(ソニー・ディスクアンドデジタルソリューションズ技術推進部門部門長の岡田隆雄氏)としている。

 一般にスピンコートを使うとディスクの周辺部が厚くなる傾向にあるが,ディスク中心部の穴をキャップで塞いでその上から紫外線硬化型樹脂をたらす工夫をすることなどで膜厚を均一化した(Tech-On!の関連記事)。厚みのバラツキは,数μm以内という。

 現在,静岡工場ではBD-ROMのサイクルタイム(単位時間当たりに製造できる枚数)はDVD-ROMの3秒以内に対して,1層で5秒,2層で6秒という。歩留まりはDVD-ROMの95%以上に対して80%である。「CD-ROMやDVD-ROMでは生産開始当初の歩留まりはいずれも約15%とかなり低かった。それに比べるとBD-ROMの初期の歩留まりは大幅に高い。今後,スピンコートの吐出条件や材料の性能向上によって10%高めることも不可能ではない」(岡田氏)としている。

 ソニー・ミュージックマニュファクチュアリング代表取締役の岡部篤氏は,「これまでBD-ROMディスクについては,コストがかなり高くなるのではといった憶測や,2層は本当に量産できるのかといった懐疑の声があった。しかし,今日この場で,2層を含めて量産化によってコスト競争力が十分あるものを作れることを証明できた」と結んだ。

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