今回のホログラフィック・メモリに記録した「AIST」の文字を再生した映像
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再生装置の一部と記録媒体(黄色い透明板)
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アゾベンゼン・ポリマ(産総研の説明用ビデオから)
アゾベンゼン・ポリマ(産総研の説明用ビデオから)
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光のパターンに応じて分子の配置が変わるイメージ
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光のパターンに合わせて表面に凹凸ができる「光誘起表面レリーフ現象」のイメージ
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 産業技術総合研究所(産総研)は,繰り返し情報の書き換えができるホログラフィック・メモリを開発。2006年7月12日~14日に千葉・幕張メッセで開かれた展示会「インターナショナルオプトエレクトロニクスショー2006(インターオプト’06)」に出展した。

 このホログラフィック・メモリの情報記録密度は「7.5cm×5cmの記録媒体で数百Gビット」(産総研 光技術研究部門 バイオフォトニクスグループ 主任研究員の福田隆史氏)。1インチ角当たりでは,100Gビット超である。「記録媒体の大きさを少し大きくすれば,今でもTビットの容量を実現できる」(同氏)。

 ただし,ホログラフィック・メモリとしてはこの記録密度は特別大きくはない。最近は1インチ角当たり200Gビット以上の記録密度を達成した開発例がある。しかし,今回は「情報の消去と書き込みが少なくとも1万回以上できる。他のホログラフィック・メモリの多くは一度しか書き込めないタイプで,繰り返し書き込めるものはほとんどなかった」(福田氏)という。

光を当てると分子が影に逃げる

 繰り返し書き換えられる仕組みは,ホログラフィック・メモリの干渉縞(ホログラム)を記録する樹脂に「アゾベンゼン・ポリマ」を利用したことによる。アゾベンゼン・ポリマの薄膜には,あるパターンを持つ直線偏光の光を照射すると光の当たっていない影の部分に分子が集まろうとする性質がある。この結果,薄膜は影の部分が盛り上がることで,微小な凹凸ができる。また,分子の向きなども変化するため,偏光の向きによって屈折率が異なる「複屈折率」の値が異なる分布が光のパターンに合わせて薄膜に記録されることになる。

 光のパターンの照射によって複屈折率のパターンを記録する点は,1度きりの書き込みができる多くのホログラフィック・メモリに用いる高分子薄膜でも同じである。しかし,アゾベンゼン・ポリマの複屈折率のパターンは可逆的で,円偏光の光を均一に照射することでパターンを消去できる。

 現時点での課題は,書き込みの応答速度が,他のホログラフィック・メモリの高分子薄膜に比べて「10~100倍ぐらい遅い」(福田氏)こと。ただし,その一方で複屈折率の大きさは,他より10倍~20倍,あるいはそれ以上大きいという。複屈折率が大きければ,複数の情報の多重記録ができ,記録密度を高めやすくなる。


【お詫びと訂正】元の記事では,記録容量の単位を「Gバイト」または「テラ・バイト」で表記していましたが,「Gビット」「Tビット」の誤りでした。お詫びして訂正致します。記事は既に修正済みです。