7月3日,ソニーは文庫本サイズの携帯型ノート・パソコン「VAIO type U」に,HDDの代わりにNAND型フラッシュ・メモリ・ディスクを搭載したモデルを追加発売する。ソニーで同機の開発に携わった,VAIO事業部門2部3課 シニア・プログラム・マネージャーの鈴木一也氏に,製品化の背景や戦略などについて聞いた。

——フラッシュ・メモリ・ディスクを搭載したモデルを,なぜこの時期に発売することになったのか。

鈴木氏 フラッシュ・メモリ・ディスクを使うとコストが高くなるのは分かっていたが,メリットは数多くある。OSやアプリケーション・ソフトウエアなどの起動の高速化,消費電力の低下,耐衝撃性の向上,軽量化などだ。従来から搭載モデルを開発したいと考えており,丁度NAND型フラッシュの価格が下がってきたため,製品企画を2005年春ごろに開始した。

——HDDモデルとの価格差はいくらか。

鈴木氏 フラッシュ・メモリ・ディスクの容量は16Gバイトで,パソコンの価格は20万9800円からだ。一方,20GバイトのHDDを搭載したモデルは,ほぼ同じ構成で14万5000円。フラッシュ・モデルにはワンセグ・チューナーも内蔵しているので,価格差はおよそ6万円といえる。ただし,フラッシュ・モデルはHDDモデルに対して数多くのメリットがあるため,価格差が6万円ならそれを受け入れてくれるユーザーもいると考えている。

——搭載しているフラッシュ・メモリ・ディスクは,OSからはHDDと同様に扱えるのか。

鈴木氏 そうだ。1.8インチ型で5mm厚のHDDと同様のサイズに設計し,ATAインタフェースを付けている。OSからはHDDと同様に見える。
 フラッシュ・メモリ・ディスクは3社の製品を検討したが,性能にはかなり差があった。単純にHDDをフラッシュに置き換えれば高速になるというものではない。フラッシュ・チップとコントローラICの組み合わせが,全体の性能と消費電力を大きく左右する。今回は2Gバイトのチップを8枚載せたディスクを採用しているが,コントローラがチップに対して並列に読み書きしている。その部分のノウハウが性能などに大きく効く。

——NAND型フラッシュは,一般にデータの読み出しは高速だが書き込みはさほど速くないとも言われている。

鈴木氏 1.8インチ型HDDと比べると,体感速度はさまざまな処理において速い。(編集部注:同社はアプリケーションの起動,ドライブ内のファイル検索などでアクセス速度はHDDモデルの3~6倍としている)。しかし,一般的に言って容量が小さいファイルの書き込みは苦手。原因は不明だが,休止状態(ハイバネーション)に入る時間はHDDモデルの方が速い。

——Microsoft社やIntel社は,NAND型フラッシュをHDDのキャッシュとして使って高速化,低消費電力化を図る技術を新たに導入しようとしている。こうした技術と,フラッシュ・メモリ・ディスクの関係はどうなるのか。

鈴木氏 Microsoft社やIntel社の技術をまだ評価できていないので何とも言えない。しかし,コスト・アップはさほど大きくないと聞いているので,性能やバッテリーの持ち時間を重視するモデルにはいい選択肢かも知れない。ただし,NAND型フラッシュの今後の価格動向によっては,フラッシュ・メモリ・ディスクの方がいいという判断もあり得る。