米Intel Corp.は,研究開発部門Corporate Technology Groupの成果を発表するイベント「Intel Research Day」で,テレビや携帯機器のユーザーの行動を観察した研究結果を公開した。同社が数カ国に派遣した民俗学者が,消費者の生活環境に入り込んで日常生活を観察し,テレビや携帯機器の「意味」を把握する研究である。コンピュータ向け部品が主力事業の同社がこうした異例の研究を手掛けるのは,今後の技術革新の種になる可能性があるためという。

 Intel社は同様な研究を以前から手掛けている。2001年から2年間かけて民族学者がアジアの国々を訪れ,家庭でのデジタル技術の利用方法を研究した。同社はこの研究の結果を基に,アジア市場向けパソコンのコンセプト・デザインとして,村の住民が共同で使える「Community PC」や,インターネット・カフェ向けの「iCafe」などを開発した。今回の研究は,こうした先例に続くものである。

テレビは単なる「現実逃避」ではない


 「The Social Lives of Television」と題した研究では,中国,インド,英国,米国に住む32の家族を対象にテレビの利用方法を調査した。これらの家族以外に,テレビの小売店やコンテンツ保有者など業界の関係者にも面接した。Intel社によると,目的は同社の「デジタル・ホーム」戦略に関連するデータを集めることという。

 この研究によると,テレビは日常生活にあまねく広まった技術で,社会的な意味を持つようになっている。消費者は,単なる現実逃避のためだけでなく,様々な目的でテレビを使っているという。たとえば,中国の中流家族が住む狭いアパートでは,家族が起きている間は常にテレビの電源をオンにしている。3歳の娘は,ベッドに座りながらテレビ番組で英語や中国語を覚えるという。つまり,この家族は娘に将来より豊かな暮らしをさせる道具としてテレビを利用していると解釈できる。米国のある家族は,ある部屋が子供のたまり場にならないようにして清潔な状態に保つために,テレビを別な部屋に置いていた。この場合,テレビは自分の環境を調節する手段といえる。インドでは,映像コンテンツがソーシャル・ネットワークに関連することを示唆する結果が出た。例えばある人が,携帯電話機向けの映像コンテンツをビデオCDにコピーしてテレビで見たいと思ったとき,必要な知識や機材を借りるために人づてで探すという。「友達の友達」といった,社会的なネットワークに頼るわけである。

携帯するものの「意味」


 消費者が持ち歩くものの意味を調べるプロジェクト「You Can Take It With You」の結果も発表した。日本や台湾,イタリア,トルコの消費者131人に,自分の携帯しているものの印象を聞いた。「自分の家を思い起こさせるものを見せて」,「最も価値があると思うものは何?」,「最も役に立つ携帯物は何?」,「デザインが悪い携帯物はどれ?」などの質問を聞いた。研究の目的は,Intel社が持つ携帯機器やホーム・ネットワーク関連の技術を今後どう活用するのかについて,アイデアを得ることという。

 この結果,例えば日本のサラリーマンは,家を思い出させるものとして「iPod」を上げたという。自宅で,パソコンの音楽をiPodに移すことが理由だった。あるトルコの女子高生は,友達と交換したSMS(short message service)のメッセージを携帯電話機が備えるフラッシュ・メモリ・カードに保存して,これらのメッセージを自分の日記の代わりに利用していた。メモリー・カードがいっぱいになって,困っているという。台湾の女性は,毎月の支払いを覚えておくために,財布に入れる大きさのカードに請求書に関する情報を書き入れて,いつも持ち運んでいた。「こうした結果を基に,特定の目的に絞った携帯機器のアイデアが幾つも生まれると思う」(研究を担当したIntel社の民俗学者)。