「民間企業の研究費は海外に流出している」と指摘する御手洗氏
「民間企業の研究費は海外に流出している」と指摘する御手洗氏
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 「キヤノンは創業以来,会社づくりは人づくりといっているが,国づくりも人づくりではないか・・・」。「第5回産学官連携推進会議」の特別講演に立った日本経済団体連合会(経団連)会長の御手洗富士夫氏は,国を挙げて人材育成に力を入れるべきだと語った。

 同氏は日本経済の現状について「バブル経済の崩壊」「失われた10年」を経て,モノ作りの復活などによる内需主導で3%の経済成長を達成するまでに回復したものの,「予断を許さない」という認識を示した。円高の進行,原油高,少子・高齢化,新興諸国の台頭など,不安要素が多いからだ。そうした現状認識を踏まえて,外国人労働者の受け入れや行政改革,地方自治の確立など,社会システムや統治システムの変革の必要性を唱えた。

 御手洗氏は,今後の成長を支えるイノベーションを生み出す土壌として,「知の宝庫である大学と産業界の連携」「世界に通用する人材育成」を挙げた。大学との連携については,国内の大学の国際競争力が弱いことを指摘しながらも連携は欠かせないとし,産学連携が成功するには,大学と企業のトップだけでなく,大学内や企業内の意識の共有化や大学と企業の現場同士の意思疎通も図る必要があるとした。

 人材育成については,新入社員の学力低下への指摘や大学教育への要望など経団連のアンケート結果を紹介した上で,企業側に対しても日本企業は欧米企業に比べて博士号保有者に対するキャリア・パスを明確にできていないと問題提起した。学生に対しても,深い専門知識だけでなく幅広い知識や経験も求めた。

 その対策として,経団連が企業と大学関係者が博士号取得者の活用を話し合うための場を2006年3月に設けたことを紹介した。さらに,文部科学省が2005年度から「派遣型高度人材育成共同プラン」を始め,2006年度はその対象を修士課程の学生だけでなく博士課程にも広げたことを評価し,「制度の一層の充実」に期待を寄せた。