図1 デモンストレーションの様子。無線カメラ(中央部)の上にある金色の物体が新開発の誘電体アンテナ
図1 デモンストレーションの様子。無線カメラ(中央部)の上にある金色の物体が新開発の誘電体アンテナ
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図2 新開発の誘電体アンテナ
図2 新開発の誘電体アンテナ
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図3 放射パターン
図3 放射パターン
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図4 レール・カメラのデモンストレーションの様子
図4 レール・カメラのデモンストレーションの様子
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 NHK放送技術研究所は,60GHzを使って映像などを伝送する無線カメラ・システムを開発し,「技研公開2006」でデモンストレーションした(図1)。撮影した映像信号を伝送する時にケーブルが不要になるため,スタジオで番組制作したり屋外でスポーツ中継する際に,制作スタッフが自由に動けるようになる。従来はカメラ・ケーブルが制作スタッフの移動を妨げていたという。ミリ波帯を使うことで160Mビット/秒の伝送容量を確保できるため,高画質の映像を伝送できる。デモンストレーションでは,無線カメラで撮影したハイビジョン映像をJPEG2000のフォーマットで符号化することでデータ速度を160Mビット/秒以下に下げ,伝送させていた。伝送方式にはMIMO-OFDMを使い,2本の送信アンテナと4本の受信アンテナを使った。

 ミリ波帯を利用すると伝送容量が稼げる一方で,電波の指向性が強いために送信した電波がうまく受信側の機器に伝わらないことがある。この問題を解決するにはアンテナの指向性を最適設計しなければならない。ただし,スタジオ内や屋外といった使用状況によって電波の進行を妨げる障害の状況や,無線カメラからの電波を受信する装置の配置位置が異なるため,屋内外を問わずに使える無線カメラを実現するにはアンテナを工夫しなければならない。今回,使用環境によって放射パターンを簡単に変更できるアンテナを開発し,無線カメラに搭載した(図2,図3)。

 今回のアンテナは円筒形の誘電体を使う。スタジオ内で使用する場合にはアンテナの上側に向かって円錐形の放射パターンを得られるようにしてある。電波の障害物が少ない天井方向に受信側の機器を配置するスタジオ内での撮影では,無線カメラから天井方向に向かって進むミリ波を出す。屋外で利用する時は,天井に受信設備を設置できないため,無線カメラの水平方向に受信設備を配置する。そこでこの円筒型の誘電体アンテナにキャップを被せて使う。こうすることで,アンテナからは水平方向に無指向ビームを放射できる。

 合わせて,2006年2月に開催されたトリノ・オリンピックでの撮影で採用されたミリ波帯を使う無線カメラ・システムのデモンストレーションも行われた。使用する周波数帯域は60GHz。トリノ・オリンピックでは,競技するスピード・スケート選手と併走しながら撮影するカメラ(レール・カメラ)にこの無線カメラ・システムを用いた。デモンストレーションでは,NHK放送技術研究所の屋外にレール・カメラと受信装置を配置し,カメラが撮影したハイビジョン映像が良好に伝送できていることを披露した(図4)。撮影したハイビジョン映像を非圧縮のまま,ミリ波帯の電波を使って伝送する。映像信号を無線で伝送できる距離は約150m。ハイビジョン映像を非圧縮で伝送するため,遅延は1/60秒以内に収まっているという。 この無線カメラ・システムでは,屋内外で放射パターンを切り替えられる誘電体アンテナは使っていなかった。