図1 電子ビームとナノアンテナ表面の電子が相互作用して電磁波を放射する
図1 電子ビームとナノアンテナ表面の電子が相互作用して電磁波を放射する
[画像のクリックで拡大表示]
図2 ナノアンテナのSEM(走査電子顕微鏡)写真 高さ100nm前後の突起がおよそ0.2μm間隔で並んでいる。
図2 ナノアンテナのSEM(走査電子顕微鏡)写真 高さ100nm前後の突起がおよそ0.2μm間隔で並んでいる。
[画像のクリックで拡大表示]

 米国のベンチャー企業,Applied Plasmon,Inc.は,大きさが10μm以下と小さい発光する微小真空管を開発した。電子と電磁波が共鳴する表面プラズモンという現象を利用して実現した。同社は当初は,ICに集積できる発光素子としてチップ間の光配線やサーバー機間通信への応用を想定しているという。

数十THz以上の超高速で動作

 この発光素子は,外形寸法や発光原理は異なるが,その構造は電子線を水銀ガスに当てて発光させる蛍光灯によく似ている。具体的には,内部を真空状態にした微細なパッケージの中に「ナノアンテナ」と呼ぶ素子が収めてあり,それに陰極から20keV程度のエネルギーの電子線を放射して発光させる(図1)。

 ナノアンテナは,Siチップの表面に突起をリソグラフィで一定間隔で何列も並べた上で,電界めっきでAgをコートしたもの(図2)。Applied Plasmon社によれば,ここに電子線を照射すると,AgとSiの界面で電子の粗密波(表面プラズモン)が発生し,さらにそれを基にして電磁波が放射される,という(図2)。

 ただし従来の真空管や蛍光灯と違い,今回の発光素子は「パッケージの外形寸法は例えば10μm×10μm×0.5μm」(同社 director of market development,VPのHenry Davis氏)と非常に小さく,「数十THzから,理論的には最大750THzでの動作も可能」(同)と極めて高速に動作する。

 表面プラズモンを利用した技術はさまざまな応用が研究されている。たとえばFDKは,従来の数百分の1という体積の屈折率センサを開発済み(日経エレクトロニクス誌の関連記事)。また,NECは,超小型Siフォトダイオードの受光用アンテナとして研究開発を進めている(Tech-On!の関連記事)。ただし,多くは高感度なセンサとしての利用で,発光素子としての研究例は,東北大学 電気通信研究所 教授の尾辻泰一氏が開発中のプラズマ共鳴フォトミキサぐらいと限られていた。

「バンドギャップはもう要らない」

 発光ダイオード(LED)や半導体レーザ素子などに対する今回の発光素子のメリットは,(1)遠赤外から紫外までさまざまな発光波長を選べる(2)発光効率がLEDの数倍と非常に高い,という点。

 Applied Plasmons社によれば,主にナノアンテナの突起の間隔や並び方が発光波長を決めるという。「一つのナノアンテナを複数の波長で発光させることも可能」(同社)。一方,LEDや半導体レーザ素子の発光波長を決める半導体のバンドギャップは,半導体の組成を変えることでしか変更できない。その組成は,例えばGaAsやGaN,AlNといった,いわゆるIII-V族など選べる元素の組み合わせは限られている。「我々のPED(plasmon enabled devices)は,バンドギャップから自由になった」(同社)。

 発光効率の高さは,金属や半導体中の電子と違って真空中には電気抵抗がないことなどによる。「この方式での発光効率は,ナノアンテナに電子がどの程度トラップされるかで決まってくる」(同社)という。