日立製作所と日立マクセルは,2006年5月16~17日に開催された「第13回燃料電池シンポジウム」において,空気極(カソード極)側のPt(白金)触媒にリン(P)を添加することで,ダイレクト・メタノール型燃料電池(DMFC)の最大出力密度を3割向上できるとする講演を行った(講演番号B32「リンを添加したDMFC用電極触媒の開発」)。

 DMFCの触媒は,Pt系金属をカーボン担体上に担持させたものを利用している。そのため,触媒の活性向上には一般的にPt系金属を微粒子化し,その比表面積を高めることが有効といわれている。同社らはこれまで,燃料極(アノード)側のPt/Ru(ルテニウム)触媒にPやN(窒素),S(硫黄)といった非金属元素を添加することで,Pt/Ruの微粒子化に効果があることを報告してきた。

 同社らによれば,非金属元素を添加しない場合のPt/Ruの粒径は3.7nmであるのに対し,Pを添加した場合は粒径が2.1nmに,Sを添加した場合は同2.3nmに,Nを添加した場合は同2.8nmに小さくなるとしている(関連記事)。

 今回はアノードのPt/Ru触媒ではなく,カソードのPt触媒にPを添加した場合について効果を調べた。その結果,何も添加しない場合のPt触媒の粒径は10nm程度であるのに対して,Pを添加した場合の粒径は3nm程度に微粒子化したという。

 触媒の酸素還元活性については,Pを添加したPt触媒は何も添加しない場合に比べて約2倍の値を示した。Pの添加によりPt触媒が微粒子し,その比表面積が1.7倍に高まったためと考察している。

 X線光電子分光分析装置や透過型電子顕微鏡に搭載したエネルギー分散型X線分析装置(TEM-EDX)で分析した結果,Pはカーボン担体からは検出されず,Pt粒子上に酸化物の状態で存在しているという。そのため,このPの酸化物がPt粒子の成長を抑える役目をしているのではないかと同社らは推定している。

両極にP添加でさらに出力密度が向上


 今回の発表では,Pを添加したPt触媒をカソードに使ったMEA(電極/膜接合体)を試作し,その出力特性についても紹介した。

 アノードには何も添加していないPt/Ru触媒を使い,電解質膜には炭化水素系を用いた。試験は35℃の環境下で,燃料や空気の供給にポンプやファンを使わずに行った。燃料となるメタノール濃度は20%。その結果,アノードにPを添加したMEAは,何も添加しない場合に比べて最大出力密度が約30%向上したという。

 耐久性については現在,数千時間の連続運転しているが,劣化の程度は従来のPt触媒と変わらないとしている。なお,同社らは今回の試験ではアノード側の触媒には何も添加していないため,アノードのPt/Ru触媒にもPを添加すれば,出力特性をより一層向上できるとの見解を示した。