パネリストを務めた3人。右からアスクドットジェーピー社長兼CEOの塩川博孝氏,シンク代表取締役の森祐治氏,日経ビジネスアソシエ 副編集長の降旗淳平氏
パネリストを務めた3人。右からアスクドットジェーピー社長兼CEOの塩川博孝氏,シンク代表取締役の森祐治氏,日経ビジネスアソシエ 副編集長の降旗淳平氏
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 情報通信やインターネット・ビジネスを専門とする独立系コンサルタントの渡辺聡氏が主催するEmerging Technology研究会と,社会人教育サービスを提供するグロービスが共催で,2006年3月31日の夜,「ソフトバンク,ボーダフォン買収で幕が上がる120兆円情報通信産業の波乱の行方」と題するセミナーを開催した。

 会場となったのはグロービス・マネジメント・スクール東京校の講義室。金曜日の夜にもかかわらず満員で,この問題への関心の高さを印象づけた。主催者によると200名を超える参加者が集まったという。渡辺氏ら主催者サイドが,この種のテーマを好んで論じ,ネットで影響力のあるブログ執筆者であったことも手伝ったのか,比較的若い世代のビジネスマン風の参加者が目立った。

 セミナーは渡辺氏を司会役に,パネル・ディスカッション形式で行われた。パネリストを務めたのは,検索ポータル・サイトを運営するアスクドットジェーピー社長兼CEOの塩川博孝氏,通信企業やメディア企業,コンテンツ提供企業への取材経験が長い日経ビジネスアソシエ 副編集長の降旗淳平氏,通信/IT関係を専門とするコンサルタントでシンク代表取締役の森祐治氏の3氏である。

 セミナーは冒頭から通信や金融,「Web2.0」関係の専門用語が注釈なしに飛び交う高度な内容。そのうえ,全体にパネリスト諸氏はかなり言葉を選んで慎重に発言しており,予備知識の少ない参加者は内容を把握するのも難しかったのではないだろうか。

 それでも途中,パネリストから「買収資金の調達方法を考えると,端末価格や通信料金の価格破壊はやりにくいだろう」,「孫さん(ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏)は,NTTやKDDIといった通信企業を最初からライバルとは思っていない。恐らくGoogleを仮想敵だと見ている」,「当面は既存の国内端末メーカーを大切にしつつ,韓国やフィンランドの端末メーカーと組む道を探るだろう」,「インフラを自前で持ったことはデメリットが多く理解しがたい」,「国際展開するとの発言はリップサービス」といった発言が飛び出し,参加者が熱心にメモを取る光景も見られた。

 総じて,「120兆円情報通信産業の波乱の行方」をパネリストたちが読み解くセミナーではなかった。今後の流れを参加者自身が分析するためのヒントをいくつか提供する程度にとどまった。ただし,これは恐らく主催者側の意図であろう。

 そもそも今回のセミナーのテーマは簡単に結論を出せる性質のものではない。いみじくも後半に設けられた質疑応答の際にパネリストの一人から,「簡単に答えが欲しいなら1億円払って戦略コンサルタントを雇うべき」という発言があったほど。実際,セミナー終盤にパネリスト諸氏が異口同音に語った結論は,「孫氏が決断したからにはそれなりのもくろみがあるはず。だが,それが何なのか,今後何が起こるかはだれも断言できないだろう」というものだった。