日産自動車は2006年3月15日,報道関係者向けに開催した「先進技術説明会&試乗会」(総合研究所)で,水素フリーDLC(Diamond Like Carbon)コーティング膜と特殊オイルの組み合わせにより,エンジン部品向けとしては摩擦係数0.07とこれまでで最高の摩擦低減効果を実現する技術の開発に成功した,と発表した。同コーティングを施したバルブリフターの実用化検討を進めており(図1),今年後半に発表するモデルに搭載する計画である。
DLCコーティングの手法としては,グラファイトを蒸発源とするイオンプレーティング法を採用。通常のDLCコーティングでは蒸発源として炭化水素を使うことが多いが,コーティング膜中に水素が含有してしまい,撥油性があるためにエンジンオイルとのなじみが悪かった。水素を含まないグラファイトを使うことで,コーティング膜中より水素を除くことに成功し,エンジンオイルとの密着性を高めることが可能になった。
グラファイトを蒸発源として使うとこれまでは硬くて脆い膜しか得られなかったが,同社は被コーティング材の鋼表面の洗浄法など成膜プロセスに工夫を加えることにより,強固なコーティング膜の形成に成功したという。膜厚は約1μm。
同技術のもう一つのポイントは,エンジンオイルの添加剤として,このコーティング膜と親和性が高い「特殊な成分」を使ったことである。この新添加剤とコーティング膜との最適な組み合わせを見つけることにより,オイルとの密着性を上げることができた(図2)。
新DLCコーティング膜をエンジンの擦動部品に適用することによって,DLCコーティング膜と相手材の間に数nm厚のオイルから成る低摩擦皮膜が形成され,摩擦を低減できる(図3)。摩擦係数(μ)としては,従来のCrNコーティング膜を使った場合と比べ約40%低減した0.07を達成した。実験室的には0.03まで実現できているという(図4)。
適用できるエンジン部品としては,バルブリフターのほか,ピストンリング,ピントンピンなどを検討している(図5)。この3点すべてに同コーティング膜を適用することによって,摩擦損失を従来より25%低減できる(図6)。摩擦損失を25%低減することにより,燃費を3~4%改善する効果があるという。なお,今年末に発表される初搭載モデルにはバルブリフターだけに同コーティング膜が採用される予定であり,この場合の摩擦損失低減効果は約10%,その場合の燃費改善効果は約1~2%程度としている。なお,コスト面では,従来のCrNコーティング膜とほぼ同等で,コストアップにはならないという。
なお同社は,説明会の会場に試作したバルブリルターを搭載したエンジンの一部を切り出した簡易モックアップを展示し,手回しでバルブリフターの擦動部がスムーズに回転できる様子をデモンストレーションした(図7)。
日産自動車は,今後同DLCコーティング技術をエンジン部品に全面展開すると共に,エンジン以外の擦動部品でも適用していく考えだ。