衛星経由で放送局のコンテンツを受け取るためのアンテナ
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送信局のシステム
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試作した端末とメイン基板
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 米QUALCOMM Inc.は2006年3月1日~2日,米カリフォルニア州サンディエゴにおいて日本の報道陣に向けたMediaFLOの施設公開イベントを開催した。MediaFLO対応携帯電話機の試作機基板や,MediaFLOの送信局内部を初公開するなど,サービス開始に向けた準備が着々と進んでいることを強調した。

 MediaFLOは携帯機器向け動画配信サービスで,「FLO(Forward Link Only)」と呼ぶOFDM利用の伝送仕様と,「MDS(Media Distribution System)」と呼ぶコンテンツ配信ネットワークで構成する。一般的な実現形態としては,携帯電話機にMediaFLOの受信回路を組み込む形になる。動画配信コンテンツそのものはMediaFLO受信回路で取得し,その受信に必要な「鍵」データを携帯電話ネットワーク経由で取得する。課金や加入処理などは携帯電話ネットワークで行う仕組みだ。

 MediaFLOは米国では700MHz帯を使ってサービスが行われる予定。6MHzの帯域幅を使った場合,QVGAで30フレーム/秒の動画を20チャンネル,AAC圧縮の楽曲データなら10チャンネル分リアルタイム配信できる。このほかに「Clipcasting」と呼ぶ1日当たり最大800分相当のデータ配信が可能。リアルタイムの映像配信と蓄積型サービスの両方を一つのプラットフォームで提供できることをウリにしている。

 携帯機器向け映像サービスとしては,日本でサービス開始予定の「ワンセグ」や,欧州を中心にサービス開始予定の「DVB-H」など地上デジタル放送の動きも活発に進んでいる。MediaFLOは携帯機器向けサービスという点で,これらと競合する関係にある。QUALCOMM社は,「MediaFLOは帯域幅当たりのビデオ伝送チャンネル数が他規格より多い。さらにMediaFLOではビデオ配信だけでなくデータ配信など様々なサービスを1つのプラットフォームで実現できる。提供できるサービスの幅が広いことが,DVB-Hなどとの相違点だ」(QUALCOMM社)と,各種のサービスを提供できる点を強みと見ている。加えてMediaFLOは基本的に有料サービスとなる。これにより,「コンテンツ提供者や携帯電話サービス事業者にとっては,より収益率の高いビジネス構造になる」とし,ユーザーの視聴料金を無料とする他サービスに対して,携帯電話事業者にとってより受け入れられやすいとの考え方を示した。

商用化は早ければ2006年末から


 MediaFLOの商用サービスは早ければ2006年末にも米携帯電話事業者のVerison Wireless社が開始する予定。「当初は8つのコンテンツ(チャンネル)をパッケージにして提供することになりそうだ。ユーザーからは月額課金の形で料金を徴収する。料金やサービス内容などはVerison Wireless社が決めることだが,料金は月額30米ドルといった高額にはならない」(米MediaFLO USA,Inc. PresidentのGina M.Lombardi氏)という。現在コンテンツを提供するテレビ局などとの交渉が最終段階に来ているとしており,「これから30日の間に,コンテンツ提供先となるパートナー企業を続々と発表していく」(MediaFLO USAのLombardi氏)とする。地上波やケーブルなどを含む米大手テレビ放送局との交渉を進めているもようだ。これらの詳細は,2006年4月5日から米ネバダ州ラスベガスで開催予定の「CTIA WIRELESS 2006」で発表するとみられる。

 QUALCOMM社は現在,サービス運営の主体となる事業会社MediaFLO USA Inc.を通じて,MediaFLOのサービス網構築を進めている。MediaFLOのサービス網には,テレビ局などのコンテンツ事業者から衛星経由でコンテンツを取得し,H.264やMPEG4を使って圧縮した後,ネットワークを通じて配信する「NOC:National Operations Center」が核になる。NOCはネットワークを24時間監視する役目を担う。既に小規模ではあるが,試験的な運用も開始されている。このNOCと光ファイバ網などを通じて接続し,半径20km~40kmのエリアへの配信を担う送信局「FLO Transmitter」が,いわば放送アンテナとなる。FLO Transmitterの送信出力は約50kWという。QUALCOMM社はこれらのサービス網構築に向け,今後数年間に総額8億米ドルを投資する計画である。

 例えばサンディエゴにはFLO Transmitterが2基設置されている。1つはQUALCOMM社の社屋内に,天井に穴をあけてアンテナの鉄塔を設けている。もう1つは40マイルほど離れた箇所に設置されているという。今回のイベントでは,Transmitterに利用している独Rohde & Schwarz社製の信号生成器や巨大なドラム型のフィルタなどを公開した。QUALCOMM社はこうしたFLO Transmitterを全米に数百基設置する予定である。

ソフトバンクとの話は


 QUALCOMM社はKDDIと共同で企画会社「メディアフロージャパン企画」を2005年12月に設立している(Tech-On!の関連記事)。今回のイベントでは,この企画会社設立のねらいについては,「日本でサービスするためのビジネス企画を進めること。そして,利用する周波数帯獲得のための活動」という2点を挙げた。サービス開始時期については,「まずは利用できる周波数帯が決まってから」とする。

 MediaFLOに関しては,ソフトバンクが関心を示しているとの一部報道もあった。これについてQUALCOMM社は「今のところはKDDIのみ」とし,ソフトバンクとのビジネスが進んでいるかどうかは明らかにしなかった。

(関連する記事を,『日経エレクトロニクス』3月13日号に掲載予定です。)