「日経マーケット・アクセス」の調査によると,2005年の世界全体の携帯電話機の生産台数は,対前年比19.8%増の7億7804万台だった。2006年は同11.2%増の8億6549万台に達する見込み。携帯電話機市場をけん引しているのは,開発途上国,特にBRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国)だ。携帯電話機の出荷台数に占める開発途上国向けの比率は,2000年の32%から2005年には58%に達している。開発途上国だけで見れば,この5年間の平均年成長率は26.9%増と急速な伸びを示した。

ロシアとブラジル市場は成長鈍化

 電子情報技術産業協会(JEITA)の発表したBRICsの携帯電話機普及率を見ると,ロシアの成長が目立つ(下図)。2005年にロシアの携帯電話機普及率は約90%に達した。これは欧米や日本を超えた水準だ。一人当たりGDPが日米欧の約1/3であることを考えると,異常な値と言える。実際は,モスクワ市での普及率が約130%と飛び抜けて高く,ロシア全体の普及率を引き上げている。実際に携帯電話機を使用している人の比率は,ロシア全体で約60%と言われる。プリペイド・カードが過剰に発行されて,一人で複数の加入者数になっているようだ。

 ロシアの実質普及率が60%としても,BRICsの普及率の中では最も高い。残りの3カ国はJEITAの数字をそのまま引用すると,ブラジルの普及率が45.6%,中国の普及率が30.9%,インドの普及率が6.2%になる(下図)。インドがBRICsの中で最も低い。今後,ロシアとブラジルで,新規加入の伸びが鈍化して,買い替え需要が中心になるだろう。一方,人口が多い上に普及率がまだ一桁のインドは,新規加入獲得で携帯電話機の需要は伸びる余地が大きい。2006年も携帯電話機市場はBRICsがけん引するが,最も有望な市場はインドだろう。


図●BRICsの携帯電話機普及率の推移(2000年~2005年実績)
出所:電子情報技術産業協会(JEITA)「移動電話世界需要予測」,2005年12月。

NokiaはBRICs全ての国でシェア約40%と死角なし

 今後も成長が期待されるインド市場でシェアが最も高いメーカーはフィンランドNokia Corp.だ。同社は,BRICsの4カ国すべてで約40%のシェアを獲得している。低価格機で台数シェアを拡大する一方で,高級機でブランド・イメージを植えつけている。出荷台数でNokia社に追いつくという目標を掲げる世界2位の米Motorola, Inc.は中国とブラジルではシェアが高いが,インドとロシアでは苦戦している。一方,この2,3年,成長著しい韓国メーカー,Samsung Electronics Co., Ltd.とLG Electronics Inc.は,2005年後半にやや勢いを失った。BRICsで高級機のイメージが定着しているため,ユーザーの裾野が広がるとシェアを上げられない。Samsung社が約10%,LG社が約5%のシェアだ。新規市場が膨大に残るインド市場で,シェアを挽回できるかが韓国メーカーの成長の鍵を握るだろう。