図1 これまでのフィールド実験に利用してきたモバイルWiMAXの端末「Type3」
図1 これまでのフィールド実験に利用してきたモバイルWiMAXの端末「Type3」
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図2 モバイルWiMAX対応PCカードを装着したPDAでテレビ電話をデモ。PCカードは,韓国Samsung Electronics社がKDDIの実験にあわせて開発したものだという。
図2 モバイルWiMAX対応PCカードを装着したPDAでテレビ電話をデモ。PCカードは,韓国Samsung Electronics社がKDDIの実験にあわせて開発したものだという。
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図3 W-CDMA,EV-DO,モバイルWiMAXで動画伝送性能を比較 W-CDMAとEV-DOは実際のサービスを利用。モバイルWiMAXはKDDIが実施中の実験サービスを利用して比較した。
図3 W-CDMA,EV-DO,モバイルWiMAXで動画伝送性能を比較 W-CDMAとEV-DOは実際のサービスを利用。モバイルWiMAXはKDDIが実施中の実験サービスを利用して比較した。
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 KDDIは,大阪市でフィールド実験中の無線通信仕様「モバイルWiMAX」技術について「実用性を確認した」と発表。無線局免許の割り当てさえ受ければ,日本国内で数年内に同技術を用いた無線ブロードバンド・サービスを開始する意思を明らかにした。同社が実験の現場に報道陣やアナリストを集めて開催した,モバイルWiMAXと同社の次世代通信サービス計画「ウルトラ3G」の公開実験で発表したものである。2006年2月中にも総務省が無線ブロードバンド・サービス用の2.5GHz帯の具体的な割り当て手法の検討を情報通信審議会で始める見通しの中,KDDIは技術開発の完成度の高さとサービス提供への意欲をアピールした。

 これまでKDDIは,モバイルWiMAXの実証実験を続けながらも,「あくまで一つの無線通信仕様の実用性を確認しているだけ」というのが公式見解だった。今回初めて,同技術に実用性があると評価し,同社のウルトラ3G構想の「キー・コンポーネント」(同社 代表取締役執行役員 副社長 全社技術担当の伊藤泰彦氏)として位置づけた。

 モバイルWiMAXは,基地局間のハンドオーバー技術を用いて,最大120km/hの速度で移動中でもブロードバンド通信が維持できることを想定した無線通信仕様。物理層の仕様はIEEE802.16eとして2005年12月に標準化された。仕様上は最大75Mビット/秒の伝送速度を持つ。通信事業や通信機器の関係者によれば,インフラの構築コストは,現行の第3世代携帯電話サービスより大幅に安くなる見通し。このため,低料金で高速通信が可能だが限定的な場所でしか使えない無線LANサービスと,広域で使えるが伝送速度に限界があり利用料金が高い携帯電話サービスの間を埋める存在として注目を集めている。

 KDDIは今回,「完全な定額制が視野にある」(同氏)として,移動体通信での定額,または現行のパケット単価よりはるかに低料金でのブロードバンド・サービスの実現に意欲を示した。こうしたサービスが実現すれば,ノート・パソコン向けの高速接続サービスだけでなく,ケータイでの超高速データ通信,固定回線を介さなくてもインターネットに広帯域でつながるテレビ,走行中もブロードバンドが使える自動車,などが実現する可能性もでてくる。

モバイルWiMAXとEV-DOをシームレスにつなぐ

 同社は,実験で利用してきた無線端末「Type 3」や,韓国Samsung Electronics社に開発を委託して完成したばかりのPCカード端末を披露した(図1,図2)。Type 3を利用したデモでは,同社の携帯電話サービスで利用している「CDMA2000 1xEV-DO(EV-DO)」のデータ通信用端末との間で,動画伝送や電話のセッションを維持しながら,アクセス回線を切り替えるデモを公開した。

 PCカード端末をPDAに装着して利用するデモでは,テレビ電話で通信相手と会話を続けながら,画面だけを大型テレビに移動させたり,相手に送る映像を映すカメラだけを高解像度のビデオカメラに切り替えたりしてみせた。これは同社がウルトラ3Gで目指す「固定通信と移動体通信の融合サービス」の1つの目標であるという。

 既存の携帯電話サービスのデータ通信機能と,モバイルWiMAXとの伝送速度比較も行った(図3)。それぞれW-CDMAとEV-DO,モバイルWiMAX対応のPCカードを装着したノート・パソコンを用意。W-CDMAとEV-DOの端末には500kビット/秒の動画データを流す一方,モバイルWiMAXには1Mビット/秒の動画データを流して,動画表示の滑らかさを比較するデモである。モバイルWiMAXだけが,滑らかに動画を表示できることを示した。W-CDMAの伝送速度は下り(基地局から端末方向)が現在最大384kビット/秒しかないためか,動画を滑らかには表示できなかった。EV-DOは下り最大2.4Mビット/秒,平均で800kビット/秒であるものの「大阪都心は(EZwebなどのサービスを利用している)ユーザーが多い」(KDDI)ため,やはり十分滑らかには表示できなかった。

10MHzのチャネルで平均6Mビット/秒を実現

 KDDIは大阪でのフィールド実験で,2GHz帯に10MHz幅のチャネルを2チャンネル確保して実験データを蓄積した。それによれば,実効伝送速度は,下り最大19Mビット/秒,上り最大7Mビット/秒。基地局のカバー・エリアでの平均的な下りの実効伝送速度は,6Mビット/秒であるという。

 基地局間のハンドオーバーには,接続を切り替える際にわずかながら通信が途切れる「break before make」という方式を採用した。「途切れる時間が200ms以下であれば,電話でも動画配信でもユーザーは気が付かない」(KDDI)。