「経産省,国産Googleの開発へ」——。2005年12月,日経新聞の紙面に掲載された記事に付けられた見出しである。経済産業省が国産の検索エンジン開発を検討すべく研究会を立ち上げたことを報じたものだ。米国を中心に開発が活発化する検索エンジンに対して日本の産業界はどうすべきなのか,国内企業で検索エンジンを開発しなくてもいいのか,などについて方向性を決める予定という。経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 情報経済企画調査官の八尋 俊英氏に研究会の取り組みについて聞いてきた。(聞き手=日経エレクトロニクス 伊藤 大貴)


——経済産業省が検索エンジンの開発に興味を持つようになったのはなぜですか。

八尋氏 ご存知のように,今や検索エンジンは生活になくてはならない存在になっています。何かちょっと調べたいときに,多くの人は図書館に行くのではなく,検索エンジンを使うわけです。

 その検索エンジンをGoogle社とYahoo!社,Microsoft社という米国企業がガッチリ押さえてしまっている。この状況で本当に良いのだろうか,というのが今回研究会を立ち上げたキッカケです。Googleを使って,あるキーワードを検索して何万件というWWWサイトが引っ掛かったとしても,実際に表示できるのはそのうちの上位1000件だけです。「PageRank」などの仕組みを使ってWWWサイトを公平に重み付けしているから問題ないという意見もありますが,悪く考えれば「この検索結果を日本のユーザーに見せるのは都合が悪いから隠しちゃえ」といった具合に検索結果を細工されても,我々には分かりません。

——米国が検索技術を握っていることに対する問題意識は日本だけが持っているのですか。

八尋氏 ドイツやフランスなども日本と同じ問題意識を持っています。例えば,ドイツにはメディア法があります。この法案では情報アクセスの不平等をなくそうというもので,検索エンジンも自前で用意した方がいいのではないかという議論が活発になっていると聞きます。また,フランスではシラク大統領が今後世界的に開発が活発化するマルチメディア検索では,他国に負けないような検索エンジンを開発するように発破をかけています。


——研究会はどのような人材が集まっているのでしょうか。

八尋氏 研究会には2つの分科会があります。各企業で研究や開発などの事業戦略に関する決定権を持っている人材が集まる分科会と,実際に現場で研究や開発に携わる技術者が集まる分科会です。

 各企業で事業戦略についてある程度の決定権を持っている人材にも入ってもらったのは理由があります。現場の技術者だけを集めても,研究会で決まった案件を実際に各企業に帰った際に上層部からストップがかかる恐れがあるためです。事業の決定権を持つ人材と現場の技術者が一体となって議論すれば,この研究会で決まることに対して各企業が遅滞なく取り組めるはずです。


——今後の取り組みについて教えてください。

八尋氏 さきほど申し上げた経済産業省としての問題意識を研究会で議論してもらうと同時に,国産の検索エンジンのあるべき姿についても議論していく予定です。静止画や動画などのマルチメディア・コンテンツの検索技術に注目しています。

 この分野の技術開発が驚くほど早く進んでいることを考えると,2006年春までにコンソーシアムを立ち上げるなどして具体的な方向性を打ち出す必要があると思います。この時期までに何の進展もない場合,残念ですが民間企業による国産検索エンジンの開発は立ち消えたものと考えてもらってもいいかもしれません。

 ちょうど予算の審議がこれから始まります。どうなるか分かりませんが,100億円も予算が付けば検索エンジンの開発に向けて関係者の雰囲気も一気に変わるのではないでしょうか。日本にも技術力を持ったベンチャー企業はいっぱいあります。こうしたベンチャー企業の技術を利用しつつ,日本発の検索エンジンが そして,Google社のような企業が日本にも生まれてほしいと考えています。


日経エレクトロニクスの最新号(2006年2月13日号)では,Googleをはじめとする検索技術の最新動向を掲載しています。