アナログ停波に続く新たな「2011年問題」が浮上


 AACSの動向に詳しい複数の技術者によれば,今回まとまったCompliance Rulesのポイントは3つある。

1 AACSに準拠するすべての機器は,ICT機能に対応しなければならない
2 日本で販売するパッケージ・メディアについては,コンテンツ事業者は2010年までICT機能を有効にしない。
3 2011年以降に製造する機器は,アナログ端子にはSDTV映像のみ出力でき,HDTV映像の出力はできない。2014年以降に製造する機器は,HDTV,SDTVを問わず,アナログ端子に映像を出力してはならない。

 機器メーカーは2の条項を勝ち取り,そのかわりハリウッドは3の条項を勝ち取るという「痛み分け」の形になった。

 条項1と2によって,機器へのICT機能の搭載を認める代わりに,日本に限ってコンテンツ事業者の自由裁量を制限させる事に成功した。ただし,Compliance Rulesの中で日本だけ名指しした優遇措置をもうけることはできない。そのためにAACS LAが考え出したのが,「次世代光ディスクにおけるICTの運用は,各国のデジタル放送の運用に準拠する」という規定である。日本では,放送事業者がICT機能を使うことは許されていない。これにあわせ,日本で販売する次世代光ディスクについても,これに準ずる形でICT=1(アナログ出力を制限せず)に固定にすることが義務づけられる。ただし2011年1月1日以降は,日本でもコンテンツ事業者がICTの値を自由に制御できるようになる。

 *ARIB(電波産業会)が定めるデジタル放送の運用規定(TR-B14およびTR-B15)には「解像度制限ビット(Image_Constraint_Token)の運用は行ってはならない。必ずImage_Constraint_Token=1と設定すること」との記述がある。

 一方,欧米ではICT機能の使用を制限する法律や運用規定はないとみられることから,同地域で発売するコンテンツについてはICTの値を自由に設定できる。
 
 とはいえ実際には,ICT機能を使う米映画会社は一部にとどまりそうだ。米The Walt Disney Companyや米Twentieth Century Fox社,米Sony Pictures Entertainment社といった映画会社は,ICT機能を使わないことを明言している。国内の技術者も「客に返品される可能性がある光ディスクの販売を米Wal-Mart Stores,Inc.のような量販店が認めるとは思えない。ICTの運用は無理だろう」と楽観的な見方を示す。

 条項3は,ハリウッドが以前が主張していた「アナログ端子がある限り,不正コピーはなくならない」との主張に基づくものである。D端子やコンポジット端子をこの世からなくしてしまうための行程表として示したものといえる。具体的には,2011年1月1日以降に製造する機器については,ICTの値に関わらず,アナログ端子にHDTV映像を出力できなくなる。さらに2014年1月1日には,SDTV映像を含めてアナログ端子への映像出力が一切認められなくなる。次世代光ディスクの出力は,すべてHDMI端子などのデジタル出力に集約されることになるわけだ。

 もし本当にこの条項が忠実に履行されれば,HDMI端子を持たないテレビが広く普及してしまった日本では,その影響は計り知れない。日本だけではない。HDMI端子の普及が進んだ米国でも,D端子付きテレビがすでに一部で出回っている。何より,そもそもコンポジット端子やS端子でしか映像を視聴できないテレビも数多い。

 ある家電メーカーの技術者は「ハリウッドは本当に3の条項の履行を本気で求めているのか。ICT機能の導入以上にハードルは高く,消費者や大手小売店が許すとは思えない」と,この条項の有効性には懐疑的な見方を示した。誰もが,ハリウッドの真意,本気度を測りかねている。

【訂正】記事タイトルの掲載当初,D端子への映像出力が全面禁止となる時期を「2013年」としていましたが,2014年の誤りです。お詫びして訂正します。