図1 シャープ 技術統轄の太田氏
図1 シャープ 技術統轄の太田氏
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 「新しいS字カーブを創っていくために10年先,20年先を見据えた技術開発に着手する。日本における今後の産学連携のモデルになり得る取り組みになるはずだ」(東京大学 ナノエレクトロニクス連携研究センター長 教授の荒川泰彦氏)。シャープと東京大学は,ポスト・シリコンを支える技術として注目を集めている有機半導体をテーマに共同で研究・開発に取り組むと発表した。有機半導体を研究テーマに選んだ理由として荒川氏は「ユビキタス時代はすべてのモノが情報を発信するようになる。そのとき,求められるのはフレキシブルであること。これを実現する材料,技術が有機半導体だ」とした。

基礎研究であることを強調


 シャープと東京大学は研究テーマである有機半導体は10年,20年先をにらんだ息の長い研究であることを強調した。東京大学の荒川氏は「出口を考えて研究に取り組むが,例えば『電子ペーパーのため』,『無線タグのため』,『有機TFTのため』と,用途を限定して研究に臨むことはしない」と主張した。また,シャープの太田氏も今回の研究を30年前の液晶開発になぞらえた。「今のシャープを支える技術の1つである液晶も研究に着手した1969年当初はどんな用途に使えるか明確ではなかった。ぼんやりと将来的にはテレビ受像機とイメージするくらいだった。当時は映像を映せるほど液晶の性能がなかったからだ。今回,東大と取り組む研究も,かつての液晶と同じ。これから20年の始まりという位置付け。用途ありきではない」とした。

 契約期間は2010年3月31日までの5年間で,東京大学駒場オープンラボラトリ内に両者による研究拠点「東大シャープラボ」を設立した。ラボ長には荒川氏が就任し,まずは10名程度の研究者を集める予定である。拠出する研究費については明かしていない。

同じ釜の飯を食う


 今回の産学連携の特徴はシャープの研究者が大学に常駐する点にある。シャープも東京大学も「場の共有が重要」と口をそろえる。シャープは5名ほどの若手・中堅研究者を派遣する。このほか,東京大学内に限定することなく国内外を問わず,広く若手研究者を公募し,同ラボでの研究・開発に当たる。

 シャープによると,企業にいる研究者はどうしても,今目の前にある商品を想起して研究に取り組んでしまうという。これがいい方向に作用することもあるが,10年,20年先のエレクトロニクス業界を支える技術を開発する際には,固定概念に捉われない方がいいとする。「大学の研究者は材料ベースから1つひとつ,知見を積み重ねる能力に長けている。違う風土で育った研究者が常に顔を突き合わせて,研究に取り組むことで面白い成果が生まれるものと期待している」(同社 技術統轄 専務取締役の太田賢司氏)。

 今回の研究開発体制を開始するに当たり,シャープと東京大学は知的財産権の扱いについて議論を尽くした。その議論には半年を要したという。シャープと東京大学が取り組もうとしている研究テーマは将来のエレクトロニクス機器を支える技術の基盤となるもの。この部分の知的財産権をしっかりと押さえておくことは後々重要となる。一方で大学は研究機関としての本来の役割を捨てるわけにはいかない。学会などを通じて研究成果を発表することは1つの使命とする。東京大学は「大学が企業の下請けになるつもりはない」と言い切る。なお,知的財産権をめぐる具体的な取り組みについては明かしていない。