社団法人高分子学会の「第14回ポリマー材料フォーラム」が,2005年11月15日と16日の2日間,東京都江戸川区のタワーホール船堀で開催される。メインテーマは「ニューテクノロジーを担う高分子材料と技術」で,招待講演35件,一般発表(ポスター)172件が行われる。今回のフォーラムの講演と研究発表は,企業が64%,大学が24%,公的研究機関が9%という構成となった。学術的な研究よりは,新製品や新技術に関する企業からの成果発表が多いというのが今回のフォーラムの大きな特徴である。ここでは,高分子学会がニュース性の高い研究成果であるとして選んだ8件の発表を紹介する。

帝人,酸化チタンとアルミナのナノファイバ

 帝人の先端技術研究所は「エレクトロスピニング法により作製したセラミック超極細繊維」というテーマで発表する。高分子を溶解させてナノファイバをつくるエレクトロスピニング法によって酸化チタンナノファイバとアルミナナノファイバの作成に成功した。

 それぞれ平均繊維径は200~300nmであり,繊維の均一性も高く柔軟である。従って,綿状,薄膜,シート状など様々な成型が可能なため,幅広い応用分野が期待される。例えば,アルミナは耐熱性に優れているため,耐熱フィルタや耐熱フィラーなど,酸化チタンは光触媒活性を示すということだ。セラミックの特性と用途に合わせた形状によれば,各種の機能材料への応用が進むだろう。

東工大,金ナノ粒子で配線パターンを形成

 東京工業大学の資源化学研究所光機能化学部門の中川勝助教授らの研究グループのテーマは「金ナノ粒子が透過する高分子膜を利用した新パターン形成法を開発」。電子回路基板に,インク塗布工程を用いず,高分子膜中での透過現象を用いて金ナノ粒子で配線パターンを形成するのは,世界で初めての技術である。簡単にいうと,スタンプで配線工程を行う。

 電子デバイスの微細化が急速に進展する中,微細な配線材料として,化学的に安定で導電性の高い金は注目されている。しかも,この技術の場合,金ナノ粒子を使うことで,サイズ効果(久保効果)が威力を発揮する。通常のバルクの金は1064℃で融解するが,約2nmの金ナノ粒子であれば200℃ほどの低温で融着できる。これによって,フレキシブルな高分子基板上に,低温で安価に配線ができる。現在のところ,インクジェットやシルクスクリーンによるものと同等の30μmだが,原理的には500nmの精度が可能であるという。

新日本石油,硫黄を原料とした新建設・土木材料

 新日本石油の研究開発本部開発部は「硫黄を原料とした新しい建設・土木材料(商品名:レコサール)の開発」。石油精製の脱硫工程から副産物として得られる硫黄は,供給過多になっておりその有効利用が大きな課題となっていた。硫黄自体は,セメントコンクリート以上の強度や耐酸性を持っているが,耐久性の面では問題があった。

 そこで,同社では耐久性だけでなく,難燃性を向上させる新たな重合添加剤オレフィンを採用し,改質硫黄固化体を開発。熱(約60℃)をかけると溶けるため,容易に再利用できることから,Recycle Ecology Sulfaの文字を組み合わせて「レコサール」と名付けた。この固化体は,セメントでは扱いにくい骨材,例えば製鉄で副産されるスラグやホタテなどの貝殻類も使用できるため,藻礁などの海洋構造物として試験施工を行っているところだ。また,耐酸・耐腐食性に優れていることから,下水道施設でのコンクリート防食材料として期待されているという。

宇部興産,環境負荷を低減した新ポリマー

 宇部興産の宇部研究所は「グリーンサスティナブルケミストリーを基軸とする新規な環境低負荷ポリマーの開発」。未利用の廃プラスチックを活用する技術である。廃プラスチックからのケミカルリサイクルで得られた一酸化炭素を原料とするC1化学品である蓚酸ジメチルを出発点として開発した「ポリ蓚酸エステル」と「蓚酸エステル系ポリウレタン」の開発が今回の報告である。

 ポリ蓚酸エステルは, ポリプロピレンとほぼ同じ物性を持ち,射出成型やフィルムなどの成型加工に向いている。一方,蓚酸エステル系ポリウレタンは,セグメント比ポリウレタンで,ゴムからプラスチックまで高度を変化させることができる。どちらも,加水分解性に優れており,分解性を活かした用途開発が進められているところである。

メニコン,薬物が徐々に放出される新ポリマー

 メニコン総合研究所は「持続性薬物放出を可能にした次世代コンタクトレンズを開発」。ハイドロゲルであるソフトコンタクトレンズにゲスト薬剤であるチモロール(緑内障の薬剤)を取り込ませ,徐々に放出する手法である。

 今回は,分子インプリントという手法を用いて,既存のゲルと同一組成で同一網目サイズでありながら,薬剤の放出速度を自由に制御できる「スマートゲル」を開発。これによって,ゲスト薬剤の放出持続時間を数時間から最長で30日間まで制御できるになったという。要するに,それぞれの患者の症状に応じた薬効持続性の調節が可能となるため,眼科疾患などのカスタムメイド医療に適用できる。もちろん,このような特性から,健康用途や美容用途にも展開が可能であるという。今のところ,前臨床試験は終わったが,臨床試験はまだとのこと。できるだけ早い臨床試験が望まれるところだ。

物材機構,コロイド結晶使ったレーザー

 独立行政法人物質・材料研究機構の材料研究所微粒子プロセスグループは「コロイド結晶を用いたフレキシブルレーザーデバイスの開発」(Tech-On!の関連記事)。例えば,半導体レーザーの場合,電流を流して,注入された電子と正孔の再結合による誘導放出で発信するが,今回のレーザーデバイスは,励起光が必要でありNd:YAGレーザーの第二高調波を用いている。

 コロイド結晶は,微粒子が3次元的に手記的に配列した構造となっているが,これによって「ブラッグ反射」という特定波長光を反射する性質を持つ。開発したコロイド結晶薄膜でレーザーデバイスをつくったところ,従来に比べ2桁程度の光励起強度の高効率化に成功した。しかも,PET基板の上での作製も可能であるため, フレキシブルで加工性の高い微小レーザーデバイスができることを示したことになる。

 今後は,フォトニック結晶のようなナノITデバイス,フレキシブルレーザー波長変換器,高輝度ディスプレイ素子(有機ELなど) といった適用分野への展開が考えられるという。

資生堂,花粉付着を抑えた表面改質ポリマー

 資生堂のマテリアル・サイエンス研究センターは「花粉の付着を抑制できる表面改質ポリマー利用技術を開発」。花粉の付着は,静電気による電気的な作用, 花粉が接触した表面との摩擦などの物理作用などが考えられているが,資生堂ではこの付着を防止するポリマーの開発を進めてきており,今回の発表となった。

 性能を評価したのは,正の電荷を持つカチオンポリマー,負の電荷を持つアニオンポリマー,正と負の両方の電荷を併せ持つベタインポリマー,電荷を持たないノニオンポリマーの4種。いずれも,安全性の高い化粧品用のポリマー素材から選んだもの。ポリエステル布地,頭髪,ヒトの皮膚などで抑制効果を調べたところ,生体由来のホスホリルコリン基を持つベタインポリマーが,もっとも花粉付着抑制か高いことか分かったという。

 すでに,特許は出願しており,今後は化粧品をはじめ,衣類や布団などへの応用展開が望まれる。

三菱重工,連鎖硬化ポリマーで新CFRP

 三菱重工の名古屋航空宇宙システム製作所は「連鎖硬化ポリマーを用いた革新的なCFRPの製造方法」(Tech-On!の関連記事)。これは,同研究グループが独自に開発した連鎖硬化ポリマーCCP(Chain Curing Polymer) の特徴を最大限に活用した。

 従来,UV硬化ではCFRPの成型は困難だった。しかし,CCPを活用した今回の技術では,RTM(Resin Transfer Molding) によるCFRPの成型方法であるが,一部分へUV照射するだけで,後は連鎖硬化により,未照射部分を含むすべての部分が,連続して硬化していくという。これは,UV照射によって光カチオン硬化により反応熱が生じ,カチオンが発生し,カチオン硬化が起こり反応熱が発生するというプロセスが連鎖的に怒ることから,未到達部分も硬化するという仕組みだ。

 この手法によれば,これまでフレームやストリンガなど航空機構部材では不可欠だった硬化炉が不要になり,板厚や透明性に制限がなく,短時間で硬化する。UVだけでなく熱エネルギーでの硬化も可能であり,適用分野も航空機構部材に止まらない。今後の実用化が楽しみである。

 なお,日経ナノビジネスは,同フォーラムを取材する予定であり,注目発表については追って報道する。