【図1】無機・有機ハイブリッド材料の成形サンプル。右下にあるようにLSIチップと放熱フィンの間に挟む放熱シートの用途が考えれれる。右上は透明成形品の例
【図1】無機・有機ハイブリッド材料の成形サンプル。右下にあるようにLSIチップと放熱フィンの間に挟む放熱シートの用途が考えれれる。右上は透明成形品の例
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【図2】無機・有機ハイブリッド材料の製法であるゾル・ゲル反応の化学反応式
【図2】無機・有機ハイブリッド材料の製法であるゾル・ゲル反応の化学反応式
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 鈴鹿富士ゼロックスは,無機物質と有機物質がハイブリッド化した新素材を開発,「CEATEC JAPAN 2005」(2005年10月4日~8日,幕張メッセ)に成形サンプルを展示した(図1)。200℃以上の環境下でも特性が劣化せず柔軟性を持ち,フィラー添加により放熱性や絶縁性を付与できる「次世代の弾性材料」(同社)として出展を機にサンプル出荷を本格化させる。

 開発した無機・有機ハイブリッド材料は,ゾル・ゲル法で作成する。出発原料は,テトラエトキシシラン(TEOS)とポリジメチルシロキサン(PDMS)。加水分解反応と重縮合反応を経て,ゾル(流動性のあるコロイド溶液)となる(図2)。これに用途に応じたフィラーを添加して200℃前後で焼成することによりゲル(コロイド溶液が流動性を失って固化したもの)化する。成形としては,型にキャスティングしたり,押し出し成形によりシート化する。

 材料の工夫としては,PDMSの末端水酸基を変性することにより,通常のこの材料系では水で希釈した低濃度のゾルになるところ,高濃度のゾルとなるために材料化できたという。ゾルは低粘度なので,この段階でフィラーを高濃度に添加することも可能になった。

熱伝導性高い弾性放熱シートが可能に


 用途としてはまず,放熱部材が考えられる。放熱性を持たせるためにゾルの段階で熱伝導フィラーであるアルミナ(Al2O3)粉末を添加する。ゾル100gに対して,アルミナ粉末を1000~2000gも添加することができる。熱伝導率は,5~8W・m-1・K-1程度である。

 近年LSIなど電子部品の発熱の問題が顕著になってきており放熱対策の重要性が増している。これまで,発熱素子と金属放熱部の間に挟む放熱シートとしては密着性を持たせる必要があるために,熱伝導性フィラーを含有したシリコーン系材料が使われてきた。しかしシリコーン系では,フィラーを高濃度に添加できないために2~3W・m-1・K-1程度の熱伝導率しか得られず性能面で限界があった。グリースにすればフィラーを高濃度に添加でき10W・m-1・K-1まで上げられるが,取り扱い性では問題が残る。新無機・有機ハイブリッド材料を使えば,取り扱いやすいシート形状で高い熱伝導性を得ることが可能になる。耐熱性についても,250℃,2000時間の実用評価で屈曲性や弾性などの特性が維持されることが確認されている。

 絶縁シートとしての用途も期待できるという。材料そのものも絶縁性を持っているが,フィラーとして窒化ホウ素を加えることによって高い絶縁性を持ったシートを調整できる。絶縁耐圧は15kV以上あることが確かめられている。具体的な用途としては,モーターやインバーターなどで金属と接触するような絶縁部材が考えられる。これまではエポキシ樹脂などが使われていたが,金属との熱膨張係数の違いから硬質なエポキシ樹脂が劣化して割れなどの問題が発生することが問題になっていた。新無機・有機ハイブリッド材料ならば,弾性が高いことから,熱膨張率の高い材料と接触しているケースで有効ではないかと同社はみている。同様の理由で,熱膨張係数に差のある材料同士の接着剤として使うことも考えている。

 また同材料は非晶性であるために,フィラーを加えなければ透明な成形品にすることも可能である。このため光学的な用途も今後開拓していきたいという。

 なお,サンプル出荷の際の材料価格は,フィラーにもよるが平均で5000円/kg程度という。