図1 三菱電機のUHF帯無線タグ。外形寸法は100mm×200mm×5mm。
図1 三菱電機のUHF帯無線タグ。外形寸法は100mm×200mm×5mm。
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図2 送信アンテナと受信アンテナを分離
図2 送信アンテナと受信アンテナを分離
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 三菱電機は,金属表面に張って利用でき,しかも読み取り距離が10mと長い,UHF(950MHz)帯の無線タグ(RFIDタグ)・システムを開発した(図1)。これまで,タグ側で電池を使わないパッシブ型のUHF帯無線タグでは,非金属に張り付けるもので読み取り距離8mをうたう製品があったが,今回はその距離を上回る(Tech-On!の関連記事)。金属に張るものでは「経済産業省の実証実験で距離1m前後のものが使われた程度」(三菱電機)だった。UHF帯無線タグで10m届くのであれば,金属製コンテナの流通管理などの分野でも使いやすくなる。

 今回,金属の表面に張っても使えるようになった理由は,無線タグのアンテナとしてマイクロ・ストリップ型アンテナ(別名,パッチ・アンテナ)を採用したためである。同タグは,次のような3層構造になっている。すなわち,Al合金板の上にスポンジ状のスペーサを置き,その上にアンテナ素子と無線ICチップを載せた基板を取り付けてある(図1)。スペーサによってAl合金板とアンテナ素子は約3mm隔てられている。このアンテナの場合,Al合金板や無線タグを張り付ける金属体自身がアンテナのグラウンドの一部として機能する。一方,一般的な無線タグは,ダイポール型アンテナ,あるいは電磁誘導を利用するアンテナを利用しており,金属表面に張り付けると十分な性能が出にくくなる。

 三菱電機の無線タグの価格は「1個数百円になる見込み。工場や倉庫でのコンテナに取り付けてフォークリフトで読み取ったり,入退室管理などで利用したりすることを想定している。我々は低コストの小さなタグは作らない」(同社)と,1個が10円前後でのコスト競争に入っている一般の無線タグとは一線を画す姿勢を示した。今後は,リーダー/ライターの小型化や高速移動などへの対処などを進めて,2006年半ばの実用化を目指すという。

一般の無線タグでも7m届く

 三菱電機によれば,今回の無線タグで読み取り距離を10mにまで伸ばせたのは,大きく2つのポイントがあるという。1つは無線タグ側でアンテナを大きくしてアンテナ利得を高めたことである。この結果,無線タグの外形寸法は100mm×200mm×5mmと他のパッシブ方式の無線タグに比べるとかなり大きく厚くなった。

 もう1つは,リーダー/ライターの送信回路や送信波が受信回路に及ぼす悪影響を大幅に軽減したこと。具体的には,(1)送信アンテナと受信アンテナを別にするなどして送受信部の分離を進めた,(2)送信回路の不要輻射を低減してチャネル間干渉を減らした,(3)送信回路と受信回路の間に電磁シールドを挿入した,などである。

 リーダー/ライターの電波の送信出力は約1W。一方,無線タグが7m程度離れている場合の受信電力は,約1nWと10億倍の差がある。パッシブの無線タグ・システムではこの高出力と高感度をいかに両立させるかが従来から課題になっている。三菱電機は2004年11月に,独自の無線タグ技術で7mの読み取り距離を実現したが(Tech-On!の関連記事),今回のリーダー/ライターに対する対策で,一般的なUHF帯無線タグでも7mの読み取り距離が可能になったという。