パソコンの需要が好調に伸びている。特に,ノート・パソコンは,2005年に対前年比15.4%増の5100万台に達する(図)。米国でもデスクトップ型に代わってノート型の需要が急増している。米調査会社Current Analysis社の調べでは,2005年5月に店頭におけるノート型の出荷金額が初めてデスクトップ型を抜いた。1990年代は,米国市場の90%はデスクトップ型だったことからすると大きな変化といえる。欧州市場でも同様の傾向が見られる。日本市場においてもノート型の比率は1990年代の50%から2005年は60%へと,より高まる傾向だ。

 しかし,この現象は限られたパイの中でのこと。先進国でのパソコン需要は,買い替えサイクルの山が来れば,2ケタ成長することもあるが,その分サイクルの谷ではマイナス成長も覚悟する必要がある。大きな価格引き下げを支えるだけの量的拡大は見込めない。パソコン・メーカー各社は,ノート型の割高感を薄め,少しでも利益率の高いノート型に誘導しているのが実態だ。

図●世界のパソコン出荷台数の推移(2004年までは実績,2005年以降は予測)

BRICsではローエンド・デスクトップに需要集中

 世界最大のパソコン市場である北米で,デスクトップ型からノート型へ需要が移行しているにもかかわらず,世界全体ではデスクトップ型の出荷台数が堅調に伸びている。それは,ノート型比率が上昇している日米欧ではなく,BRICsでデスクトップ型の販売が好調だからだ。BRICsとはブラジル,ロシア,インド,中国のことだが,パソコンの出荷が好調な地域という観点からは,ブラジルに代表される中南米,ロシアに代表される旧ソ連の国々まで全て含めて考える必要がある。

 日米欧のパソコンの買い替えサイクルから考えると,2004年後半にパソコン出荷が落ち込んでもおかしくなかった。しかし,実際は2005年に入っても世界のパソコン出荷の勢いは衰えない。それを支えたのがBRICsに代表される地域の需要だ。

 これらの地域では,割安感よりも価格の“絶対値”が重視されるため,ノート型よりもデスクトップ型の需要が強い。特に,デスクトップ型の中でもローエンド・モデルに需要が集まる。この需要傾向はメモリ需要にも影響を与えている。2005年前半に世界のパソコン出荷台数は,対前年比で約10%増と好調だった。しかし,その間,メモリ価格は下落を続け,採算ぎりぎりのところまで下がった。パソコン需要が強い時にメモリの価格がそこまで下がるのは異例とも言える。これは,パソコンがいくら売れてもメモリ搭載量が少ないローエンド・モデルが多かったためだ。

"その他"地域で日米欧並の潜在需要

 パソコン出荷の好調はいつまで続くか。これは,BRICsに代表される日米欧以外の地域の高所得層に行き渡るまでは続くと見るのが妥当だろう。しかし,この高所得層へ行き渡るタイミングを判断するのが難しい。まず高所得層の人口あるいはその比率を見極めたい。

 まず,中国はどうだろうか。よく沿岸部の4億人程度を日欧米並みの高所得層と見なせるという。実際,携帯電話の加入者も3億人を超えたあたりから伸びが鈍化していることから,携帯電話機の普及率が日米欧並の70%とすると,潜在ユーザー4億人は妥当と言える。インドが中国と同じ高所得層比率とすれば約3億人。中国より比率が低いとしても2億人くらいは存在すると見てよいだろう。ロシアとブラジルは,携帯電話機の普及率がほぼ50%まできていることからすると,中国やインドに比べて高所得層の比率はかなり高そうだ。全人口の70%と仮定するとそれぞれ1億人前後になる。これらを合計するとBRICsだけでも高所得層は8~9億人いることになる。BRICs以外の地域に広げれば10億人は超える見込みだ。

 潜在需要は,日米欧と同規模かそれ以上あると見てよさそうだ。日米欧でパソコンが普及するのに10年近くかかったことからすると,普及している分を除いてもあと2~3年はパソコン市場をけん引してくれてもおかしくない。ただし,BRICsの比率が増えるほど,ローエンド・モデルの比率が増えるため,パソコンの低価格化は続くことになる。