まず,2005年第2四半期のDRAMメーカーとNAND型フラッシュEEPROMメーカーのウエハー投入量を見ていただきたい(図)。

図●2005年第2四半期におけるDRAMとNAND型フラッシュEEPROM向けウエハー投入量(200mmウエハー換算)

 この図から次のことが読み取れると思う。
○韓国Samsung Electronics Co., Ltd.の投入量がダントツに多く,DRAMでもNAND型フラッシュEEPROMでも他を圧倒している。
○DRAMとNAND型フラッシュEEPROMの両方にある程度の規模で投入しているのはSamsung社と韓国Hynix Semiconductor Inc.の韓国メーカー2社のみである。
○NAND型フラッシュEEPROMのメーカー数よりDRAMメーカー数の方が圧倒的に多い。
○かつてあれほど世界を席巻したNECと日立製作所のDRAM部門が合併してできたエルピーダメモリの投入量はSamsung社のおよそ1/10しかない。
など,特に直接,メモリ事業にかかわる方にはいろいろ読み取れておもしろい図だと思う。そして,ここで頭に入れておいていただきたいことは,メモリ事業をやる上では生産規模が大きいほど有利ということだ。

NAND型の投入量で東芝に迫るHynix

 Hynix社のNAND型フラッシュEEPROM向けウエハー投入量は,2005年第2四半期の時点で東芝(米SanDisk Corp.と共同運営するラインを全て含む)に肉薄している。Hynix社がDRAMラインへの投入能力の半分をNAND型に振り向ければ,東芝を簡単に抜いてしまう状況だ。ちなみに,すでにHynix社はNAND型フラッシュEEPROM用のウエハー投入量でルネサステクノロジに大きく差をつけて3位に入った。

 この状況を見て,DRAMの二の舞ではないかと心配する読者も多いと思う。すなわち,先行していたにもかかわらず,韓国メーカーの圧倒的な生産能力によってシェアを奪われ,最後は撤退に追いやられる。1990年代後半に,日本メーカーがDRAM市場で辛酸をなめた姿と重なるのだ。

 東芝に言わせれば,多値技術,微細加工技術,高速インタフェース,どれをとってもHynix社より上だから負けることはないと言うことだろう。しかし,これがまたDRAMの時と重なってしまう。1990年代,DRAMの製造に関して,日本メーカーの技術は韓国メーカーに負けていなかった。そして,当時の日本メーカーは,微細加工では上だから韓国メーカーの大投資も恐れるに足らずと高をくくっていた。しかし,現実はそうはいかなかった。韓国メーカーの大投資の前に日本メーカーはもろくも崩れ去った。

 今でも日本メーカーのDRAMに関する技術は,間違いなく世界標準より上にある。しかし,メモリ・ビジネスにおいて規模の効果ほど大きなものはない。技術がトップ・レベルであることはもちろん必要だが,量の勝負でも負けてはいけないのがメモリ・ビジネスなのだ。

東芝が大投資に方向転換

 東芝は,2005年8月9日の経営方針説明会の中で投資規模の拡張を発表した(Tech-On!関連記事1)。これは,DRAMと同じ轍(てつ)を踏まないための東芝の意志の表れだろう。日経マーケット・アクセスは,半導体の生産能力を測るために,露光装置の導入台数を定期的に調査している。東芝の2005年の導入台数は,Hynix社の約3倍になる。ちなみに,DRAM市場でトップ・シェアを狙って投資を続けているエルピーダメモリに比べても約2倍の規模だ。さらに,東芝は投資の大半をNAND型フラッシュEEPROMを生産する四日市工場(三重県)に振り向ける(Tech-On!関連記事2)。この投資で,現在はHynix社の1/4程度のウエハー処理能力を1/2近くまで引き上げる考えだ。また,Hynix社より300mmウエハー比率が高いのも東芝の特徴である。

 一方,Hynix社はDRAM市場でのシェアを維持しながらNAND型フラッシュEEPROMを増産する必要に迫られている。韓国の300mmウエハー対応ラインはDRAMに充てるため,NAND型フラッシュEEPROMを300mmウエハーで生産するのは,2006年半ばに稼動予定の中国の生産ラインを待つことになる。Hynix社としても,東芝を抜くためだけにNAND型フラッシュEEPROMを増産するわけにはいかない。

 メモリ向けウエハー処理能力で,Samsung社は東芝のはるか上を行く。東芝が積極的に投資を続けても,2~3年で追いつくレベルではない。しかし,Hynix社には規模で追いつくことは可能。DRAMの二の舞になること避けられそうだ。