九州大学 医学部 百年記念講堂大ホールで2005年7月27日,青色発光ダイオードの開発者である米California大学Santa Barbara校(UCSB) 教授の中村 修二氏(写真1)が,『ブレークスルー 全ての壁をぶちやぶれ!~青色発光ダイオードの中村修二教授,挑戦の奇跡を語る~』と題して講演を行った。

 今回の講演会は,九州大学が「九州大学伊都キャンパス誕生年 2005」と題したシリーズで行う催しの第1弾に当たる(写真2)。2005年10月1日に開校する新キャンパスに活力を与えたいという願いを込め,講師として中村氏を招いた。直接的にはナノテクノロジーに関する話題ではなかったが,中村氏の熱のこもった講演に,参加した研究者や大学関係者は大いに刺激を受けたようだった。

 中村氏は徳島大学大学院修了後,日亜化学工業に入社し,93年には20世紀中には不可能といわれた窒化ガリウムを用いた高輝度青色発光ダイオードの世界初の実用製品化に成功したことで知られる。

 発光ダイオードは,スクロール表示器や電子案内板,交通信号などに使われている。従来のフィラメント電球や蛍光灯に比べて格段に寿命が長く,消費電力も少ないことから,電球や蛍光灯にとってかわるとも言われている。ところが,赤色,緑色の発光ダイオードは以前から製品化されていたのに対して,明るい青色発光ダイオードは作るのが難しいとされてきた。青色発光ダイオードの実現によって,光の三原色によりほとんど全ての光の色を作り出すことができ,白色光源,フルカラーディスプレイ,擬似点灯しない信号機,光ディスクの高密度光記録用光源としてなどの多用な用途が可能となったと言える。

 中村氏は以下のように語った。

 「今となっては,窒化ガリウムは無毒,省エネ,省資源だと言えるが,開発の際はまず作ってみようというスタンスだった。10年間の下積みを続けながら,無理だと言われてもその怒りをモチベーションにし,研究者人数が少なく,強固な結晶作製が難しい窒化ガリウムを使って,論文に頼らないで研究を進めた。毎日電気炉を改良し,反応をかける繰り返しによって短期間で開発に成功した」。

 非常識なものに挑戦し,周りの考えを信じ込まず,自分のやりたいことを自分で考えて実験をしたことが成功の鍵だと言う。また,大学入試に重点を置き,大企業に就職するのが良しとすることで学生の勉学に対する楽しさが失われていく日本の教育の問題点も指摘した。「米国ではやりたいことをやれる教育になっており,大学を利用したベンチャーを立ち上げる人が多く,やりたいことをやっている人が成功している」と語った。大学と連携し,大学の知識を利用することでより効率的に研究成果と利益が得られるであろう。

 主催となった九州大学側は中村氏の講演を受けて,「新キャンパス移転を機会に,今までにないシステムを立ち上げよう。情報発信するオープン型のキャンパスを目指し,内外の多くの人に来てもらい多くのことを立ち上げたい」と締めくくった。(成松 香織)

【写真1】講演後,ロビーで著書へのサインに快く応じる中村 修二氏
【写真1】講演後,ロビーで著書へのサインに快く応じる中村 修二氏

【写真2】会場入り口
【写真2】会場入り口