図1 多値方式で再生した信号。孤立したセル1つの反射率の強度に8つの値を持たせ(左),セルとセルとの境界には15個の値を持たせている(右)
図1 多値方式で再生した信号。孤立したセル1つの反射率の強度に8つの値を持たせ(左),セルとセルとの境界には15個の値を持たせている(右)
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図2 セル中央で反射光の強度を測ると,クロストークの影響で多値の読み出しができない
図2 セル中央で反射光の強度を測ると,クロストークの影響で多値の読み出しができない
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図3 2つのセルの境界で強度を測ると,15個の値を読み出せるようになった
図3 2つのセルの境界で強度を測ると,15個の値を読み出せるようになった
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図4 2つのセルの組み合わせで15個の値を持つ
図4 2つのセルの組み合わせで15個の値を持つ
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 キヤノンは,光ディスクの記録方式に多値技術を導入することで,Blu-ray Discの書き換え型媒体に28Gビット/(インチ)2の面記録密度でデータを記録再生できたと「ISOM/ODS'05」で発表した(図1)。一般的な直径12cmのディスク片面1層で,約40Gバイトに相当する。「記録レーザ光の波形(ライト・ストラテジ)の工夫によっては,Blu-ray Discの約2倍に相当する35Gビット/(インチ)2の面記録密度も可能になる。最終的にはBlu-ray Discのオプション規格として提案したい」(同社 コアテクノロジー開発本部 アドバンストデバイス技術開発センター AD第一開発部 部長の小山理氏)。

市販のBD-REで記録再生実験に成功

 一般の光ディスクでは,記録マークの長さを読み取ることでビット列を再生する。これに対してキヤノンの多値技術では,トラック方向に沿って一定の長さで区切った「セル」を用意し,1セル当たり3ビット(8値)の情報を持たせる。セルに情報を記録するときには,レーザ光のパルス幅を8段階に調節して書き込む。情報を読み出す場合は,レーザ・スポットを当てて戻ってきた光の強度をビット列に変換する。今回達成した28Gビット/(インチ)2では1セルの長さは200nm,35Gビット/(インチ)2なら160nmになる。今回の方式を使った結果,「街角で売っているBD-RE媒体とBlu-ray Disc用光ヘッドの組み合わせで,ここまで記録密度を高められた」(同社 コアテクノロジー開発本部 アドバンストデバイス技術開発センター AD31開発室の住岡潤氏)とする。

 ただし,今回記録再生ができたのは1トラックのみ。隣接トラックのクロストークが問題となる複数トラックでの記録再生実験は今後行うという。今後同社は,追記型媒体や再生専用媒体でも同様の実験を行うほか,多層化技術への応用にも取り組む。「レーザ光を吸収するような特別な物質は使っていないので,4層まではいけると見込んでいる」(小山氏)。

セルの境界で反射光を読み取ってクロストークを防止

 従来の多値技術では,あるセルの値を読み取る際に,レーザ・スポットが隣接セルまで覆ってしまい,セル間のクロストークが発生する問題があった(図2)。今回キヤノンは,2つのセルの境界で反射光の強度を読み取るようにすることで,この問題を解決した。これは,2つのセルの境界ではビーム・スポットが2つのセルのみをすっぽり覆う形になり,他のセルの影響が無視できることを利用したものだ(図3)。

 セルに記録した値を0~7で示すとすると,2つのセルの境界で測った反射光の強度は,2つのセルの値の組み合わせで0~14の計15通りの値を持つ(図4)。例えば,2つのセルの値が(6,2)なら境界での値は6+2=8になるという具合だ。ここで直前のセルの値が分かっていれば,引き算を使ってもう1つのセルの値を算出できる。こうして,セルの境界での値を読み取ることで,次々にセルの値を算出できる。セル中央で読み取った値もを組み合わせることで,データの誤りが連鎖するのを防ぐ。