図1 公衆無線LANサービス「D-cubic」を発表したライブドア社長の堀江貴文氏
図1 公衆無線LANサービス「D-cubic」を発表したライブドア社長の堀江貴文氏
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図2 サービス用に開発した無線LANの基地局。無線LAN用LSIには,米Atheros Communications,Inc.の製品を利用している。
図2 サービス用に開発した無線LANの基地局。無線LAN用LSIには,米Atheros Communications,Inc.の製品を利用している。
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 ライブドアは,いわゆる「無線LANサービス」の試験サービスを2005年7月後半に開始し,同10月1日に本サービスを開始する。同社の代表取締役社長である堀江貴文氏が2005年6月15日に東京都内で会見を開き,発表した(図1)。無線LANの標準規格IEEE802.11bや同gに準拠する機器を利用する。サービス名は「D-cubic」である。

 無線LANを利用したインターネット接続サービスは,すでに多くの通信事業者が繁華街やファーストフード店,鉄道の駅周辺,地下鉄の構内といった人の集まる場所を中心に提供している。

 今回のD-cubicと既存の無線LANサービスとの違いは,店内や駅などに限らず,主に電柱を使う形態で,広域を携帯電話のように面的にカバーすることを想定している点。また,利用料金が定額で月525円と安い点である。ライブドアは,10月1日の本サービス開始までに東京・山手線内の80%のエリアをカバーするために,2200台の基地局設備を設置する計画であるという(図2)。「1基地局に半径100mのエリアをカバーさせ,それを面的に展開する」(ライブドア ネットワーク事業本部の花垣直樹氏)。山手線内の面積は約60km2。この80%の面積を単純に2200で割ると,基地局の間隔は平均で約150mほどになる計算である。継ぎ目のないサービスを実現する上で,基地局のカバー・エリアが50mほど互いに重なっているのは自然と言える。

 料金に関しては,大手通信事業者が提供している無線LANサービスが定額で月1500円程度。D-cubicはその1/3と安い。

 電柱を基地局の設置場所に選ぶ点は,1999年にソフトバンク,東京電力,マイクロソフトの3社が共同設立したスピードネットが採用した方法と同じである。今回,ライブドアは基地局とインターネットを結ぶ通信回線に,電力系通信事業者であるパワードコムの光ファイバ,電柱は東京電力のものを主に利用する。

死屍累々の「公衆無線LANサービス」を超えられるか

 ライブドアの堀江氏は「約15万人が損益分岐点。加入者数の目標は100万超」と壮大な数字を挙げた。

 ただし,個人ユーザ向けに無線LANで面的にカバーしようとするサービスは,これまで1つも成功していない。例えば,有線ブロードネットワークスと無線機器メーカーのルートが2001年6月に共同設立したモバイルインターネットサービス(MIS)は2002年4月に商用サービスを開始したが,2002年12月にはサービスを休止した(Tech-On!の関連記事)。鷹山(現YOZAN)も,携帯電話のIP版の実現を目指して2002年9月に無線LANサービスの実験を始めたが,商用化には至らなかった。同社はその後,別の無線規格IEEE802.16,いわゆる「WiMAX」を使う事業モデルを発表し,2005年末にもサービスを開始するとしている(日経エレクトロニクスの関連記事)。無名のベンチャー企業が手掛けようとしたものも含めれば,まさに「死屍累々」といった様相である。

 これは,無線LANで利用する2.4GHz帯の電波が直線性が強く障害物に弱い点や,3チャネル~4チャネルしか同時に利用できない点,無線LANが端末が移動しながら通信することを想定して設計されていない点,さらには通信距離が短くパソコンを常時持ち歩いて路上などでインターネット接続サービスを利用したい人が多くない現状や,メールの送受信や「iモード」のようなサービスが携帯電話機で出来るようになった点が理由として挙げられる。こうした状況は今も大きく変わっていない。

 これに対して堀江氏は,料金以外に,今回のサービスが「どこでも使える」という従来サービスとの違いを強調するとともに,以前と違って今は大部分のノート・パソコンが無線LANに標準対応していることなどを指摘した。